トランプ前政権では「強硬策」を進めたが…

注目されるのは、トランプ次期大統領の対応だ。

トランプ前政権は2020年、やはり安全保障上の懸念から、TikTokを米国企業が買収する計画を進め、買収する側はオラクル、ウォルマート、マイクロソフトが候補にあがっていた。最終的には、新会社TikTok Globalを設立してオラクル、ウォルマート、バイトダンスで株式を保有し、米国内のユーザーデータはオラクルのクラウドサーバーで管理するという案がまとまった。しかし政権交代後、バイデン政権はこの計画を棚上げし、独自の対応を進めて「TikTok禁止法」が成立した経緯がある。

買収計画のうちデータ管理の件だけは進められ、TikTokは2022年6月にオラクルへのデータの移管が完了したと発表した。ただし、米TikTokは依然としてバイトダンス傘下にあるため、中国政府の影響を受ける可能性は残っている。

前政権で強硬策を進めたトランプ氏は、今年の大統領選ではTikTokを活用した。若年層へのアピールを狙ったとみられ、6月1日に公式アカウントを開設すると、初投稿から23時間でフォロワー数は320万人を超えた。現在は、1500万人近いフォロワーがいる。「自分はTikTok支持」「TikTokを救う」と発言するなど、好意的な姿勢を表明してきた。

TikTok擁護の背景には、彼の“メタ嫌い”があるのは確かだろう。FacebookとInstagramを運営するメタ・プラットフォームズとは対立してきたので、米TikTokがなくなるとSNS業界の競争が制限され、メタの力が増すことを警戒しているようだ。

トランプ氏は12月16日、TikTokの最高経営責任者(CEO)周受資氏と会談し、同日の記者会見で「TikTokについて検討する。特別な思い入れがある(a warm spot in my heart for TikTok)」と発言した。

TikTokの周受資CEO(写真=Lukasz Kobus/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

「世論操作の力」を示したルーマニア大統領選

しかしトランプ氏がTikTokにどれだけ好意的でも、「禁止法」を全面撤廃することは難しいだろう。今年3月に下院で法案が可決されたときは賛成が352票、反対が65票と圧倒的な賛成多数だったからだ。トランプと同じ共和党で反対したのは、共和党の下院議員220人のうち15人だけだった。

欧州の動向も影響するはずだ。

欧州委員会は12月17日、ルーマニアの大統領選挙をめぐる問題で、TikTokを正式に調査すると発表した。11月24日の第1回投票で、泡沫候補と見られていたロシア寄りで極右政治家のカリン・ジョルジェスク氏が約23%の得票率で1位となった件だ。

選挙前は1%だった支持率を人工的に引き上げた工作が疑われ、TikTokでジョルジェスク氏の動画が大量に拡散されたことが発覚。約2万5000のアカウントがプロモーションに利用され、なかには国家機関を偽装するなど違法な投稿も見られた。TikTok側は、選挙宣伝を削除したが追いつかず、選挙法違反の投稿が残ってしまったと主張している。