日本はエネルギー戦略を再考せよ!
2つのプロジェクトを見てみると、日本の資源獲得政策が、もっぱら経済産業省の省益や、関係者の私利私欲だけで動いており、国家戦略がないことが分かる。
かつて第一次大戦のとき、フランスの首相クレマンソーは「石油の一滴は血の一滴」であるとして、米国大統領ウィルソンに「戦略物資」である石油の供給を求めた。日本政府は輸入原油に占める自主開発原油の割合を2030年までに4割まで引き上げる計画を掲げている。しかし、こうした「日の丸油田」は、経済産業省の省益のためにのみ存在する「絵に描いた餅」と言っても過言ではない。なぜなら日本に通常ルートで原油が入ってこない状況とは、戦争や国際的な緊張で原油の輸出や輸送が停止する時だ。そういう状況下で、日本が権益を有するカザフスタンやアゼルバイジャン、あるいはリビアのような国々が、「この油田の日本の権益は15パーセントですから、その分の原油をお持ちください」などと言うとは想像できない。ましてや「悪の枢軸」と名指しされるイランの油田を「日の丸油田」などと呼ぶのは、悪い冗談でしかない。
1970年代の2度のオイルショックの反省から、先進諸国の努力で石油は「コモディティ化」され、いつでも市場で手に入る商品へと性格を変えたが、「資源パラノイア」と化した中国の台頭で、資源全般が「戦略物資」へと回帰しつつある。今、日本が必要なものは、省益や個人の私利私欲を超えた、資源に関する国家戦略だ。それは地球上の限られた資源を各国で奪い合うのではなく、人類共通の資産として分け合える「コモディティ化」の維持、ないしは国際的な枠組み作り(アジア諸国による原油の共同備蓄等)への努力であるべきだ。
また、メタンハイドレートやオイルサンドといった「非在来型」資源の開発や、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの利用拡大なども重要である。
※参考文献
『メタル・ウォーズ』 谷口正次著(東洋経済新報社、2008年2月)