すべての仕事を辞める人よりも成功率が高い
「手元にあるもの」で始めるから、逆にリスクを大胆に取れるこのようなアプローチを採用することは、逆説的なメリットをアクティヴィストにもたらします。というのも、クリティカル・ビジネスの実践にあたって「手元にあるもので、とにかく始める」ことによって、アクティヴィストは逆に大胆なリスクを取ることができるようになるからです。何といっても、失敗によって失うのは「手元にあったものだけ」なのですから。
クリティカル・ビジネスの実践にあたっては、失敗したらすべてを失うようなリスクを背負う必要はありませんし、むしろ、背負うべきでもありません。なぜでしょうか? 失敗によって失うものが大きくなり過ぎてしまうと、クリティカル・ビジネスの実践において重要な「難易度の高いアジェンダ」を掲げられなくなるからです。
起業に関する過去の研究からは、安定した本業を持ちながら、リスクのある不確実性の高いビジネスを起業した人の方が、すべての仕事を辞めて起業にコミットした人よりも成功する確率が高い、という結果が出ています。
これは直感に反する研究結果だと思われるかもしれませんが、「安定した収入をもたらしてくれる本業を続けながら起業した人ほど、副業で大胆なリスクを取ることができる」と考えればその理屈は単純です。
カフカやアインシュタインも、安定した職に就いていた
一方で、失敗したらすべてを失うような大きなリスクを取って大胆に起業した人ほど、失敗を恐れて大胆な行動が取れなくなってしまいます。結果的に、中途半端なストロークに終始して失敗する傾向がある、というのが研究の明らかにするところです。
このようなアプローチは投資の世界においてバーベル戦略と呼ばれます。バーベル戦略とは、投資ポートフォリオを、一方の端に非常に安全な投資を、もう一方の端に高リスク・高リターンの投資をおいて組み合わせる考え方です。
これをキャリアに当てはめて考えれば、一方の端に安定的な報酬が得られるけれども大化けすることのない仕事を、もう一方の端には不安定で不確実ではあるけれども大化けする可能性のある仕事を組み合わせるという考え方になります。
保険会社に勤めながら余暇を使って画期的な小説を書いたフランツ・カフカや特許局に勤めながら論文を書いてノーベル賞を受賞したアルバート・アインシュタインは典型的なバーベル戦略の成功例と言えます。