自己を空っぽにし、“災難”に飛び込む

「例えば難しい仕事や、大震災のような恐ろしい対象と“1つになる”のは容易ではない。しかし、三昧に入るためには、苦しくとも逃げずに仕事や災厄とひたひたと同化し、自己を忘却することです。台風を恐れず、飛び込んでその目に至る、といえばわかりやすいでしょう。災難に遭うときは災難に遭うがよろしく候。己が対象に“なり潰れた”とき、そこに災難はないんです」

これを、「なまじ傍から眺めているから迷うし、怖い。理屈をこねるな、身を捨てて飛び込め!」と言い換えれば、実践哲学の匂いがしてこよう。

ヨガ:心身が活性化し、閉塞感がふわっとほどける感覚/「IYCインターナショナルヨガセンター」主宰のケン・ハラクマ氏。逆立ちは世の中を違う視点で見る練習にもなる。http://www.iyc.jp/

続いて訪れたのは、東京・荻窪のヨガ教室である。

「ヨガは前屈、後屈、捻るの3パターンを組み合わせて背骨を刺激し、身体を本来あるべき形に整えていきます。身体を動かしつつ呼吸することで心身のエネルギーが活性化し、行き詰まっていたものがふわっと開くような感覚が味わえますよ」。そう語るのは、IYCインターナショナルヨガセンターを主宰するケン・ハラクマ氏。

「身体の状態と人の精神的な部分は、思った以上に結びついています。例えば、自信がない人は肩が前つぼみだったり、声がボソボソと小さかったりする。それが、胸を開くポーズをとりながら呼吸するうちに血流やエネルギーの通りがよくなって気持ちがすっきりしたり、咽喉の部分を開くポーズをとることで声が大きくなり、自分に自信を持てるようになったりします」

ヨガの片足立ちのポーズも、心身の結びつきを物語る好例だ。

「振れ幅の差こそあれ、均衡がとれても身体は常に動いている。その状態を察知して、一方にゆきすぎないようにするのがバランス感覚です。お金の使い方や他人とのコミュニケーションといった生活の中で働くバランス感覚は、実はこれと同じ。片足立ちの練習を通じてその感覚を会得できる」

しかしヨガの目的は、複雑なポーズができるように努力することではない。

「にもかかわらず、特に男性はしばしばヨガを修行として扱い、ポーズじたいが目的化してしまいがちです」

男性は、今の社会で「今のままの自分でいい」と認めてもらえる場が少ないのでは、とケン氏は指摘する。

「これでは、できないポーズがあることじたいストレスになる。できようができまいが、今の自分の存在を認めてくれるヨガ教室があれば、大きな安心感につながります。ヨガを心身のメンテナンスを通じて人生を生きやすくするためのツールと捉え、その人の生活パターンに合った活用法を考えればいい。できない自分を許し認める心情と、『できるといいよね』という心情の、矛盾する2つを併せ持つことが大事です」――これは、どの局面においても望ましい、ゆとりある心の持ちようだ。