テロを警戒し、クリミア併合9周年集会は中止に
これらの組織の実体など詳細は不明ながら、プーチン政権はテロ活動に神経を尖らせているようだ。
政権が3月18日にモスクワで予定していたクリミア併合9周年集会を突然中止したのは、テロ警報があったためとされる。
5月9日の対独戦勝記念日に全国で行われる予定だった「不滅の連隊」という市民の行進も「安全上の懸念」から中止し、ネット上で実施することを決めた。
第2次世界大戦に従軍した親族の写真を持って練り歩く「不滅の連隊」では、ウクライナ戦線で戦死した家族の写真が掲げられ、反戦につながることを恐れたとの見方もあるが、政権が狙った愛国心の高揚が阻害された形だ。
ロシアではSNS上で真偽不明のテロ警報が飛び交っているといわれ、社会に治安への不安が広がっているようだ。
ロシア内務省が1月に発表した2022年の殺人と殺人未遂事件は、前年比で4%増加し、2万1200人が殺害された。殺人事件が前年比で増加したのは20年ぶりという。武器を使用した犯罪も約30%増加し、3万2600人が重傷を負った。
ウオッカの消費量とともに暴力犯罪も増えている
「コメルサント」紙(3月28日)によれば、2022年のアルコール消費量は前年比で6.8%増加し、うちウオッカは同5.9%増加した。ロシアの弁護士は、殺人事件の70~80%はアルコールの影響で行われ、暴力犯罪の拡大はアルコール消費量の増加が原因と指摘している。
ロシア人は戦時下の閉塞感を、飲酒でまぎらわせようとしているようだ。
西側諸国の対露経済制裁は大きな打撃を与えていないが、原油価格の下落で昨年12月から財政赤字が急拡大した。通貨ルーブルの下落も進み、インフレにつながる恐れがある。
今年の予算は国防費と国内治安対策費で全体の約3分の1を占め、教育費や医療費の減少が目立つ。来年3月の大統領選を控え、政権はバラマキ政策を行う余裕はなさそうだ。
野党第一党、共産党のジュガーノフ委員長は3月に下院で演説し、「ロシアの労働者の半数は月収2万ルーブル(約3万5000円)以下で生活している」とし、富裕層への税額を引き上げるよう求めた。
モスクワなど都市部の所得は高いが、地方はまだまだ貧しい。生活苦が広がると、世相や治安の悪化につながる。