一番艦「こんごう」の建造まで足掛け6年を費やした

ひょっとすると、若い人はびっくりするかもしれない。当時の野党第一党は、自衛隊の存在を堂々と憲法違反だと主張していた。しかも、安全保障政策は「非武装・中立」だ。つまり、軍隊はおろか自衛隊さえ持ってはいけないし、アメリカと同盟を組んでもいけない。非武装・中立を貫いていれば日本は侵略されることもないし、世界は平和になるという考え方だ。

当然ながら、社会党はことあるごとに防衛予算に噛みついた。少しでも甘いところがある予算要求などは最初から予算審議さえしてもらえない。我々海上幕僚監部も、そういう緊張感の中で予算を要求しなければならなかった。

そんな時代状況の中で、大蔵省への説明を難儀の末に何とかクリアして、政府予算案決定、次いで国会審議を経てイージス艦建造予算が認められた。イージス艦一番艦「こんごう」の建造が始まったのは1988年度であり、米政府の内諾を得てから本艦建造開始までの期間は、足掛け6年を費やしたことになる。

世間が納得する説明ができるよう、予算の理屈を組み立てた

ここで最後まで大蔵省が徹底的に詰めたことは、防衛効率の問題だ。どれぐらいの予算を投入したら、どれぐらいの効果が得られるか、という事である。防空能力を高めるためにイージス艦に替えて従来のミサイル護衛艦の増勢ではだめなのか。あるいは戦闘機の追加購入で洋上防空能力は上がらないのか、といったことを厳しく問われた。国会審議で追及された際には、当然ながら世間一般が納得できる説明が求められる。

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たとえば、イージス艦は当時1隻1500億円だとして、2隻購入すれば3000億円になる。F15戦闘機は1機100億円だから、イージス艦2隻分の3000億円を費やせば30機になる。そのF15を配備して防空態勢を取るとして、2カ月ぐらい作戦を行えばどうなるか。F15の作戦効率を1とすれば、イージス艦は1.2になる。

これに加えて維持経費などを考えると、F15の全経費を1とした場合にイージス艦は0.7で済むというような、事の性格上公表ができない性能に関わる秘密情報には触れない形でイージス艦導入の正当性を、主として費用対効果の相対比較結果で示すことにした。そこに我々の知恵があった。