起業活動をしている人の割合は主要国でも低い
これらの結果から、日本企業ではいまの職場が気に入っているので働き続けたいという人がいる一方で、転職や独立をしてみたいという気持ちはあっても、損得勘定をしたら割に合わないと思い留まっている人がかなり多いことがうかがえる。
それを裏づけるような調査結果がある。
日本財団が二〇二二年、アメリカ、イギリス、中国、韓国、インド、日本の一八歳の人を対象に行った「第46回 国や社会に対する意識(六カ国調査)」では、「多少のリスクが伴っても、新しいことに沢山挑戦したい」「多少のリスクが伴っても、高い目標を達成したい」という回答の割合は他国と比べ際立って低く、いずれも五割を下回っている。
また経済産業省の「起業家精神に関する調査」によると、起業家や起業活動をしている人の割合を表す「起業活動率」は、今世紀に入ってからおおむね五%以下で推移しており、アメリカ、イギリス、フランスなどの先進国、それに韓国と比べても低くなっている。
後ほど詳しく説明するように、年功制の大枠が残っている日本企業では、一部の専門職や傑出した能力の持ち主でないかぎり、転職すると給与が下がる可能性が高い。
年金、退職金などの福利厚生を含めたら、いっそうその差が大きくなる。
「成長したい」と口では言うけれど…
そもそも日本にはシリコンバレーに象徴されるアメリカなどと違い、だれもが起業して成功する夢を描け、かりに失敗しても再挑戦できるような社会的、経済的、文化的条件が整っていない。近年は日本でも公的あるいは民間のさまざまな起業支援が整いつつあるが、それでもアメリカなどに比べればサポート体制が十分ではなく、失敗した場合の損失も大きい。下手をすると自分の財産をすべて失い、生活に困窮するような事態に陥りかねない。
このように日本では転職・独立など、外部に有望なキャリアの選択肢が見出しにくく、それが将来への大きな夢や希望を抱くことを困難にさせている。若者がしばしば口にする「成長したい」という言葉から真剣味が伝わってこないのも、成長した先に魅力的な将来展望が描けないからだろう。