抑圧された主婦の「心の不倫」

三浦 名古屋って、離婚率が全国平均よりも低いんですよ。結婚も大都市にしてはやけに早い。これはトンデモ理論かもしれないけれど、あのあたりは戦国時代以来の伝統があって、土地が安い。土地は誰のものになるかわからないから、価値が低い。だから動かせるモノに価値がある。家具に金をかけるのもそうですが、一番動かせるモノが知識ですよね。そういう意味ではユダヤ人みたいなもので、持ち歩ける財産に価値が出ちゃう。

 名古屋は医者と学者の地位が高い街です。僕の同級生は学者が多いです。とにかく医者になることが、男の子を持つ名古屋の親の最大の理想なんです。

三浦 僕の見立てだと、あのお医者さんはまだ勤務医なんですが。

 はい、勤務医です。勤務医ですけれど、大学病院ではなくて、民間の病院。

三浦 ナントカ医療法人勤務。

 そうです。行く末は家を建てて開業する野心がある人ですね。

©2011「MY HOUSE」製作委員会

三浦 お医者さんの妻、潔癖症の木村多江がホームレスの鈴本さんに渡している空き缶は、あれはラブレターですよね。

 拡大解釈すれば(笑)。なにしろ裏設定としては、彼女は一歩も家を出ない人ですから、たぶん曇りガラス越しに、鈴本さんと話した。鈴本さんと――現実の鈴木さんが優れたところは、空き缶を集めるのに営業して契約しているというところがすごいわけでして。

 木村多江さんの家にも、同じように、たぶん窓越しに、「すみません」と自分のことを喋り、営業し。主婦の木村多江さんが、まったく対極の暮らしをしているにも関わらず何かそこに通じるもの、感じるものがあって、鈴本さんに家の敷地の一画を掃除することを許し、空き缶を持っていくことを許すということなんです。

三浦 私のプロファイリングでは、木村多江は元薬剤師か看護婦です。

 当たりです、薬剤師です(笑)。

三浦 で、勤め先であのお医者さんと結婚した、と。

 あのお医者さんは肛門科です。

三浦 そこまでは考えていなかった(笑)。

 毎日のようにお尻からカメラを突っ込んで、大腸ポリープをずっと切っている人です。肛門科は異常に清潔ですからね。

三浦 私の解釈では、奥さんは本来はあんなに潔癖じゃないのだけれど、育った家庭が潔癖主義で、結婚した旦那様も潔癖主義だったという二重の抑圧がある。

 そうかもしれません。

三浦 それで息苦しい。その心の隙間をホームレスにグッとこられるという。

 そうですね、バランスを取っているのでしょうね。彼を許しているのも、たぶんそういうことだと思います。

次回予告

スペシャル対談の最終回は、実は始まっているちょっとしたいい感じの「革命」の話。シェアハウス、シェアオフィス、あたらしい形の働き方、老人と若者でつくるコミュニティ……。「今、面白いことをやっている人は、お上から何か言われなくても、自分たちで事を動かしている。これは日本の歴史上けっこう珍しいことで」と三浦さん。次回《これからは、どうすれば幸せになれるのか》は6月5日オンサイトの予定です。

(構成=PRESIDENT Online 編集部 撮影=佐藤 類 撮影協力=LwP asakusa)