死を回避しないということを受け入れる

とはいえ医師は皆、白衣と登録番号の奥に、悩み苦しむ心を抱えています。どうか同情し、大目に見てください。医師は、医学部に入学するときは「人の命を救いたい」という理想を抱いていますが、やがて薬や手術だけでは患者を救えないと思い知ります。医学部の授業では、「良い医師は死を回避するものだ」と教え込まれます。

アナ・アランチス『死にゆくあなたへ 緩和ケア医が教える生き方・死に方・看取り方』(飛鳥新社)

そして、医師の仕事は「恐れ」を土台にしています。「検査をしましょう!」とか「週に5日はウォーキングをして、しっかりと睡眠をとり、正しい食事をしましょう!」と促し、「そうしなければ、死んでしまいますよ!」と脅します。

でも、それらをすべて実践したところで、人はいずれ死ぬものです。「○○をすれば、よりよい人生を送ることができます」と、注意の仕方を変えるべきです。

必要なのは、良い動機です。患者の死は医師の失敗ではない――医師や医療従事者は、このことを受け入れましょう。

医師にとっての失敗とは、かかわった患者が幸せに生きていないこと。がんが治癒したのに、幸せを感じられずに生きる人も多くいます。なぜそんなことになるのでしょう?

健康を取り戻すことが、より良い人生を送るためのきっかけになると患者に理解させられないのなら、医師は何のために病気を治すのでしょうか? 医師の最も重要な役目は、患者から目を離さないことです。

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