「現時点で対応は考えていない」が32.4%

一方で、70歳までの継続雇用の形態として改正高齢者雇用安定法が定年廃止、定年延長、再雇用に加えて掲げた、「希望者と70歳まで継続的に業務委託契約を結ぶ場合」と「企業が関わる社会貢献事業に従事する」という選択肢を労働者保護の観点から問題視する専門家らもいる。

この場合はいわばフリーランスのように企業との雇用関係は切れ、法律による労働に対する保護が及ばなくなる恐れがある。嘱託での再雇用にしても1年ごとの契約であり、改正高齢者雇用安定法によってシニア社員が必ずしも70歳まで安心して長く働ける環境が守られるわけとはいかない。

こうした問題点もあり、企業は改正高齢者雇用安定法が企業に求める70歳までの雇用機会確保に対する努力義務に困惑しているのが実態だろう。帝国データバンクが2月に実施した調査によると、社員の70歳までの就労機会確保に「継続雇用制度」の導入を挙げた企業は25.4%だったのに対して、「現時点で対応は考えていない」が32.4%とこれを上回り、「分からない」の14.9%を含めると、調査結果からは「企業が対応を決めかねている様子がうかがえる」(帝国データバンク)。

高齢者の就労機会確保まで手が回らない中小企業

改正高齢者雇用安定法には法的強制力がないうえに、社会保障財源確保といずれやって来る年金支給開始年齢の引き上げを視野に入れた政府に「押し付けられた努力義務」との意識が企業側に働いている結果かもしれない。

帝国データバンクの調査の有効回答は1万1073社でうち中小企業が8割超の9143社を占める。採用難の中小企業にあっては人手不足や技術伝承の面から前向きに高齢者雇用を実施している企業もある。

ただ、帝国データバンクの調査レポートによると、高齢者の体力、健康などを考慮すると「業種や業態にもよりさまざまであり、一括りに70歳までの就業機会を確保するのは厳しいのでは」といった声が多数みられたという。

それ以上に、コロナ禍に見舞われ事業の維持・継続に懸命な中小企業だけに、高齢者の就労機会確保まで手が回らないというのが確かな実情だろう。大企業ですら業種によっては雇用確保もままならない中にあって、中小企業ならなおさらだ。