景気が悪くなると正社員、景気が良くなるとプロジェクト単位
これは、場所に関係なく仕事ができる業界だとすでに顕著です。例えば、ロンドンのIT業界の場合、職場で働いている人の8割がプロジェクト単位の雇用、というのが珍しくありません。
エネルギー業界や非営利団体、環境などの世界でも、プロジェクト単位の雇用が珍しくありません。ただし、プロジェクト単位で雇われる人々は、技能を売るので、時間単位の報酬が高い専門家として扱われます。
会社側では、正社員かプロジェクト要員かでの差別はほとんどなく、単に役割が違うだけ、という認識です。正社員の場合は、雇用が安定する代わりに報酬が低い、という違いがあります。景気が悪くなると正社員(誰かに雇われる)、景気が良くなると、プロジェクト単位で働くというサイクルを繰り返す人が少なくありません。
また、技能を売る働き方なので、年齢や性別、国籍であれこれ言われることはありません。あくまで、仕事ができればよいというスタンスです。ですから、出勤時間や、仕事が終わった後の夜の付き合い、中元・歳暮なども、仕事の成果には関係がありません。
これは公共機関ですらそういう傾向があります。例えば国連機関の場合、開発援助プロジェクトを実施する場合、国連職員が担当するのはプロジェクトの企画や管理なので、実作業のほとんどは、プロジェクト単位で雇用された外部のコンサルタントです。プロジェクト関係者の9割がコンサルタント、という場合も珍しくありません。
会社員がローリスク、ローリターンだった時代の終わり
このように、働く場所が関係なくなっているので、先進国の企業では、わざわざ社員を抱える必要が薄れています。
多くの組織では、ごく一部の、意思決定をする幹部や、「富を生み出す仕組み」を考える人だけを残し、あとは、短期的に雇用したり、海外の人を雇う、という傾向が高まっています。必要な人材は置いておき、景気の動向により、部署ごとレイオフしたり、海外に移動したりしてしまうのです。
図表1は、OECDによる1980年代中頃から2000年代中頃の主要国の労働時間の推移を調査した結果です。低収入層は労働時間が減っている国が大半です。先進国では低収入層の仕事が合理化されたり海外に移転してしまったりしたため、労働時間が減っています。
かつては、オフィスでの情報共有や、仕事の管理が難しかったので、部署ごと海外に移転、という事例は多くはありませんでしたが、情報通信技術の発達で、かなり簡単になったので、思い切る組織が増えてきたのです。
それを裏づけるのは、先進国における、非正規雇用の増大です。先進国では付加価値の低い仕事が国内から消えるか、コストを削減するために非正規雇用などに置き換えているため、トップ層以外の賃金が下がっています。
さらに、OECD加盟国では1990年代半ばから2000年代後半にかけて非正規雇用の割合が11%から16%に増加しています。これは、情報通信技術が発達し、金融やIT産業が以前にも増して盛り上がってきた時期と重なります。非正規雇用が増えているのはなにも日本だけの話ではないわけです。
つまり、正社員であっても、ある日突然クビになったり、部署ごと海外に移転してしまったりする可能性があるため、その地位は決して安定していないということです。
正社員はかつては、自営業者などに比べると莫大な収入を得られることが少なく、ローリターンである一方ノーリスクでしたが、今では、正社員であっても、地位が安定しているとはいえないのです。