年末年始は、カウントダウンコンサートからニューイヤーコンサートまで、街中がクラシック音楽であふれる。まとまった休みで、いつもとは違った時間の使い方ができ、1年で最もクラシック音楽がアツイこの時期に、ぜひ聞いてもらいたいのがベートーベンの『第九』だ。演奏家を支援するNOMOSの渋谷ゆう子代表は「ビジネス的視点からも、たいへん参考になる1曲だ」と言う。
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ビジネスパーソンが、『第九』を聞くべき理由

おすすめしたいのは、ベートーベンの『第九』である。そんなの当たり前なオススメなど必要ないという方がいるかもしれないが、クラシック曲の中で知らない人はいない、この曲をあらためて紹介したいワケがある。

『交響曲第9番 ニ短調 作品125 合唱付き』は、1824年に作曲された。現在では、「第九」として有名になり、とくに第四楽章の合唱部分は『歓喜の歌』としてよく知られている。定番中の定番だからこそ、全部通して聞いたことがないという方もまた多くいらっしゃるのではないだろうか。

この1時間を超える交響曲は、小中学校の音楽の授業1コマでは通して聞くことができず、有名な第4楽章の合唱部分のみを習う、ということが少なくない。また、年末になると街のあちこち、テレビCMなどで頻繁に耳にするので、この楽曲を知っているような気がして、あえて始めから全部通して聞いてみようという気にならないからかもしれない。

しかしながら、経営者やビジネスパーソンこそ、このベートーベンの交響曲第9番のすべてを味わうべきだと思う。それは、『第九』が交響曲の最高峰というだけではない。この楽曲をきっかけとしてベートーベンの持つ、音楽家としてだけでない側面や、この楽曲をめぐるビジネスの側面を知ることができるからだ。

ベートーベンは、「フリーランス」の走り

ベートーベンが生きた1700年代当時の作曲家たちは、その多くが宮廷のお抱え作曲家として生計を立てていた。王族や貴族の宮殿で演奏されるものを作曲し、サラリーをもらうのである。だが、ベートーベンは他の作曲家とは違い、自作品を自分で人に売り、生活をしていたのである。いわば「独立系作曲家」の走りである。

宮廷のお抱え作曲家になれなかった、つまり就職に失敗しているわけだが、それならフリーランスでやっていこうというベートーベンの発想は、それが苦し紛れであったにせよ、その後の作曲家の生き方にも大きな影響を与えた。

ベートーベンといえば、その美しく重厚な作風に目が(耳が)行きがちであるが、見方を変えればビジネスパーソンとして才覚もあり、自身の才能で食べていく、仕事としてやっていくことをいち早く確立した人物でもある。どこの宮廷にも雇われず、安定収入がなかった彼がとった音楽のマネタイズ手法は、現在の音楽出版に通じている。フリーランスとして作曲家が生きていく現在の音楽業界にも通用するやり方である。また、耳が聞こえないという作曲家にとっては過酷すぎる病を抱えてもなお、腕一本で生きていたベートーベンの精神力には、学ぶところが多い。