あてにしていた退職金が予想より低いケース多発
なお、実際に家計相談を受けていると、60歳定年後の収入の水準はもっと低く、住宅ローン返済額はもっと高い、という印象が強い。そうした人たちが、30~40代で住宅ローンを組んだとき、「年時に住宅ローンが残っても、いずれ退職金で返済すれば良い」と考えていると、追い込まれてしまう。
厚生労働省の「就労条件総合調査」によると、勤続35年以上の退職金の額は、2003年が2612万円だったのに対して、2013年が2156万円。ほんの10年間で456万円も減少している。会社の規模が小さければ、額はもっと低いものになる。
晩婚・晩産で、60歳までに子どもが就職していなければ、退職金は、住宅ローン返済どころか教育資金に充当される可能性も高い。さらにA子さんの父のように、病気などで想定外の出費があった場合、退職金はその返済などに回るかもしれない。
定年前に住宅ローンがこんな状態の人は要注意!
では、定年前の住宅ローンについて、どのような点に気をつけるべきなのか。4つのパターンをご紹介しよう。
(1)60歳定年時の住宅ローン残高を把握していない
住宅ローンの完済年齢を理解している人は多いが、定年を迎える60歳時点の住宅ローン残高がいくらか正確に答えられる人は多くない。まず、定年後の家計収支をきちんと把握することが大前提だ。
収入に対する住宅ローン返済負担率の適正範囲が25~30%以内とすると、40%超で「黄色信号」、50%超で「赤信号」だと言える。私が受ける家計相談の事例では、黄・赤の人は決して少なくない。
(2)住宅ローン残高が退職金の額を大きく上回っている
退職金は、住宅ローンを完済する大きなチャンス。ところが、残高が退職金の額を上回っているようであれば、完済はおぼつかない。前述の通り、退職金は平均約2000万円。少なくとも60歳定年時の住宅ローン残高が2000万円以上ある人は要注意だろう。
(3)ボーナス併用返済を利用している
60歳定年後に継続して働いていたとしても、現役時代のようなボーナスはない。毎月の住宅ローン返済を何とかまかなえたとしても、年2回のボーナス併用返済の際に、それに上乗せして数十万円の負担が重いと感じる人は多い。A子さんの父親も、ボーナス時の返済が難しいため、A子さんにお金を借りるありさまである。
(4)頭金は物件価格の2割以下、完済年齢が75~80歳である
以前は、住宅ローンの頭金が2割で、完済年齢が70歳というケースが一般的だったが、頭金ゼロの全額借り入れで、完済年齢は75~80歳というケースも少なくない。ある銀行の住宅ローン担当者は、「頭金が2割以下の場合、かなりの人がデフォルト(債務不履行)になっている」と話していた。