サービスは、裏目に出ることもある
ゲストを感動させる、ゲストを喜ばせるサービスをつくるというのは、実はかなり難しい。知恵を絞っても、「予想通り」ということは少なく、実際に始めるまで結果はまるでわからない。
たとえば、従来のスタンドでは、前方の椅子席ほど埋まらないという課題を抱えていた。水面に近くて見やすい前方から埋まると考えがちだが、前方に座ると舟券売り場から遠くなるから面倒くさい、とゲストから言われていた。それならと、新スタンドを建築する際に、前方に座敷席を作った。座敷席は、グループやファミリーゲストの好評を得て、休日などは真っ先に売り切れるようになった。座敷席は全国的なトレンドになり、改修や新築工事のスタンドには導入されるようになった。やはり「このままでいいのか」と自問自答を繰り返し、失敗と改善を繰り返しながら、全体的によくしていくほかないのだ。
私は出張が多いため、競艇場にいるときは、なるべくゲストと触れ合うようにしている。「笹川さん! こんにちは!」と、ゲストが声をかけてくれる。ときには直接リクエストをもらう。新しいスタンドの椅子を、見栄えがいいからという理由で木製にしたのだが、「ありゃ、ケツが痛いよ」と率直に言ってくださった。私の案だったから、社員はわかっていても言いだせなかったのかもしれない。ゲストは遠慮がないので、生声が貴重なヒントになる。ただちに、椅子にクッションを巻いた。
病院でも、温泉でも、コラボしたい
公営競技の本質は、地方財政への寄与、社会福祉への貢献だ。みどり市は、競艇事業の収益金で学校給食費のすべてをまかなっている。一般財源に組み込まず、わかりやすい形で市民にPRしてくれていることに感謝している。利益を生み出して、市民に還元することはもちろん、競艇場が「場所」としても求められる存在でありたいと私は思っている。
ボートレースを楽しむだけでなく、医療サービスを受けられたり、スポーツが楽しめたり、または美味しいコーヒーを飲みながら読書ができたり、いろんな形で人と人が交流できたり、何かを体験できたりするような拠点にしたい。日本は観光資源が豊富なため、ボートレースだけで観光資源として対抗しうるかと言えば、正直厳しい。温泉でもいいし、病院でもいい。相手にこだわらず、コラボレーションを模索している。無茶苦茶なことを言っているようだが、私は本気だ。
チャレンジを続けないと、競艇場に未来はない。極端な話をすれば、インターネット投票が10割になったら、競艇場は全国に1つあればいいことになる。全国の競艇場が、それぞれの特色を出しながら、工夫してゲストを増やしていく、このチャレンジは必ず成功するはずだ。事実、右肩下がりだった競艇の総売上金額は8000億円台で底を打ち、1兆2000億円まで回復した。社員には、自信を持ってもらいたい。