パートも社員もモチベーションが高い理由
こうした精密製品を作っているのは、女性パートたちである。自社開発した100種以上もの特殊治具を使い、7000種もの部品から製品を1個流しで組み立てる。難しい工程もこれらの治具の使い方と作業標準書を覚えれば誰でも組み立てられるようになる。1年目は10種類の簡単な製品を作り、2年目から作れる製品の種類を増やしてスキルアップしていくのだ。
同社も最初からパートを活用していたわけではなく、過去、男性の正社員を確保できずに、未経験の主婦や高齢者を戦力化するために工夫を重ねてきた。彼女たちのモチベーションを高めるためにも待遇をよくし、作業環境も改善してきた。工場は明るく、トイレはデパート並みに清潔で、床暖房が設置されているので、冬でも快適だ。
工場や事務所内には提案のための「気づき箱」があり、パートからも職場環境、作業効率や製品の改善提案が多く提出される。同社のパートは指示されるままに作業をしているのではなく、自ら図面を読み、スキルを上げることに仕事のやりがいを見出しているので、製品や作業の小さな改善にも気づくのである。
年間で200件以上も提案があり、その9割が実際の改善につながるというのだから、その提案内容の質は高い。3カ月に1度表彰するが、パートが受賞することも多く、正社員は「気づくだけでなく、解決まで提案しないと社内でバカにされる」と松橋は言う。
パートがこれだけモチベーションが高いと、社員もうかうかしていられない。松橋は「当社では上司からの指示を待っているような人間は評価されません。みな自立性と行動力を求められる。また、自律した各人がお互いに助け合う風土を作るには、各人の家族を含めて背景が分かっていた方がいい」というのが松橋の考え方で、そのために一緒に飲食をすることを大事にしている。3カ月に1回は本社でビアパーティーが開かれ、全従業員が参加。社内旅行も出勤扱いで、経費は全額、会社負担。その社員参加率は98%に達する。
8年前、こうした独特な社風になじめず、採用した新卒8人のうち7人が辞めたときがあった。松橋はそれを機に自社に合った人材を採用するため、米国で開発された適性試験を導入、概念化能力、使命感などを強く持った人物を面接やグループディスカッションを通じて採用するようになった。適性に合った人材は100人に1人ぐらいだという。その結果、新卒採用の約7割が女性になり、早期退職する人はいなくなり、自由闊達な会社風土の中で、のびのびと勝手に成長していく社員が増えていった。
大組織にはこうしたメトロール流のやり方は無理かもしれないが、中小企業にとって、1つのモデル的な経営と言えるだろう。(文中敬称略)
●代表者:松橋卓司
●創設:1976年
●業種:工場の自動化に貢献する工業用センサの開発・製造・販売
●従業員:120名(パート含む)
●年商:17億3000万円(2015年度)
●本社:東京都立川市
●ホームページ:http://www.metrol.co.jp/