「乗り味がよくなかった」プリウス開発秘話
「プリウスはすごかった。ハイブリッドは世界で初めてボンと出したわけですから、僕らメーカー側からいえば絶対に失敗ができない。買っていただくお客さまには迷惑をかけられない。その精神は(豊田)喜一郎さんの時代から変わりません。メーカーの人間としては世界で初めてハイブリッドの量産車を出したのだから自慢したい気持ちもあります。ただ、開発していた時はいまひとつ乗り味がよくなかった。それではダメです。乗り味をカイゼンするのが僕らテストドライバーであり、メカニックです。テストドライバーはただクルマに乗って評価するだけでなく、メカニックとして直すことができなくてはならない。
だから、自分たちでクルマを組み立てて、自分で走って、自分でばらしてという作業をやっていく。
トヨタでは技術員は技術開発をする。僕ら技能員は技術員が考えていることを具現化する。具現化してモノをつくり込んでいく。一方、アイデアや考えを出して、試験していくのが技術員です。技術員と技能員がチームになって新車を開発して鍛えているわけです。
学園を出たら基本は技能員ですが、技術員になるコースもあります。進学したいという希望を出して、認められたら豊田工業大学を受験して、入学、卒業して、そこから技術員になる。トヨタの技能員がやっているのは、クルマにいかに付加価値をつけるかということなんです」
「正座しながら頭を下げ、涙を流しました」
菅原は排気ガス規制で当時の社長、豊田英二がホンダに頭を下げた時、申し訳なくて涙を流した。そして、2010年、現在の会長、豊田章男がアメリカ下院の公聴会に出た時も彼は社内で中継を見ていて、「お客さまと社長に申し訳ない」と泣いた。責任感が強く、泣いてしまう男だ。
「アメリカで事故が起こったのは他社製のフロアマットを使ったことが原因です。(注 2009年8月28日、カリフォルニア州サンディエゴでレクサスES350が暴走。4人が死亡する急加速事故が発生。その後、当局の安全調査報告では、運転席床に置かれたゴム製フロアマットがレクサス製ではないことがわかり、事故はフロアマットにアクセルペダルが引っかかり、戻らなくなったことが原因とわかった。この事故は大々的に報道され、リコール騒動の象徴的な存在になった)
お客さまがそういった使い方をされてしまうことに対して、注意喚起できなかった自分たちはまだまだダメだと思ったんです。代車のフロアマットをご使用になることも想定して、クルマの設計、開発をしなければならなかったのではないか。いつの時代も技術員の設計だけではなくて、自分たち技能員があらゆるシーンを想定しなければいけないと思いました。公聴会の時、寮のテレビで中継を見ていて、正座しながら頭を下げ、涙を流しました」


