やなせは暢のような女性にリードされるほうがありがたかった

どこか頼りなく見えていたのだろうか、強気な彼女によくリードされる。この時代はまだ男尊女卑の考えが根強く、そういった態度を不快に感じる男性は多かっただろう。が、やなせは嫌ではなかった。むしろ、そのほうがありがたい。

これまで女性と接する機会がなく、どうコミュニケーションを取ればよいのか分からない。だから、相手からグイグイ距離を詰めてくれるほうが助かる。また、気が強くて颯爽とした美人というのは、小学生の時に離れ離れになった母親とイメージがかぶる。考えてみれば母もハチキンの部類だった。惚れてしまった理由にはそれもあるのだろう。

東京駅など、空襲で破壊されたままの東京にショックを受ける

高知から四国山脈を越えて高松へ。そこから連絡船で瀬戸内海を渡り、岡山から幾度も列車を乗り換えてやっと東京駅にたどり着く。長く辛い旅だったが、やなせは久しぶりの東京に心を躍らせていた。しかし……ホームの階段を降りると、そこにはまだ戦争の傷跡が生々しく残っている。東京駅も空襲で甚大な被害をうけていた。復旧工事が完了しておらず、壁が崩れ落ち折れ曲がった鉄骨がむき出しになっている。