旧友と昔日の熱い記憶を語り合う、取引先を郷里の店に招待する、知らぬ土地の料理で旅気分……使い道いろいろ、編集部厳選のうまい店をご紹介。
郷土料理の店で田舎に思いを馳せる
燗酒を飲みながら湯気の立つ鍋を眺めていたら、東北の一軒宿にいるような不思議な心持ちになった。実際は上野「北畔」の座敷。創業52年の老舗の味が錯覚を起こさせるのだ。
とんぶりとかにみそをポン酢で和えて口に入れ、間をおかずに盃を口元へ運ぶ。塩茹でのばい貝は肝まできれいに引き出して味わい、酒をまた2杯。鰊を麹に漬けた絶好の肴にさらに、2杯、3杯。
「1尾丸ごと仕入れる鱈のお腹からかき出したばかりの白子ですよ」
女将さんはそう言いながら、鱈の鍋に、たっぷりの大根おろしを盛った。これが名物、津軽雪鍋だ。
ほう! と声が出てからは卓を囲む一同、実に賑やかな気分になり、食べる手、飲む手が止まらない。衝立の背後からはお国訛りも聞こえるようだ。郷土料理の店には、旅の楽しさと帰郷の懐かしさが漂う。
【青森】北畔(ほくはん)●上野