苦しい説明を続ける農水省
コメは不足していないという(右辺の結論)をサポートするために農水省は苦しい説明を続けている。上の供給不足の主張に対して、農水省は次のように反論している。
「昨年8月、南海トラフ地震の臨時情報の発表を受け、一時的にコメの需要が急増し、それに対する供給が追い付かない状況が発生しました。しかし9月以降は需要が落ち着き、12月末時点での小売事業者の販売数量は前年比100%(±0)となっています。これは、一時的な需要増がその後の需要減によって相殺されたことを示しており、現時点では先食いによる供給不足の状況にはなっていません」(3月11日付弁護士JPニュースより)
元農水省職員として悲しくなるほどの間違いである。
第一に、南海トラフ地震に備えた買い占めが8月に起きたというが、それなら8月に民間の卸売業者等から家庭への在庫のシフトが生じ、8月の民間の商業在庫量は大幅に減少しているはずである。
しかし、民間在庫の減少量は対前年同月比で24年7月40万トン、8月39万トン、9月50万トンである。8月に減少幅が増大しているのではない。そもそも仮に、需給に影響に影響を及ぼすような買い占めが起きる(例えば20万トン)として、コメの主産県である富山県や長野県の生産量を上回るような量(東京ドームの敷地で6メートルの高さ)を消費者が家庭で保管したとは想定しがたい。
第二に、それ以前の23年10月から民間の在庫量は前年同月比で23年10月23万トン、24年2月36万トン、5月40万トン、と減少していた。これは明らかに23年産米が猛暑によって影響を受けていたことを示している。猛暑で被害粒が発生して一等米比率が低下し玄米から精米にする際の歩留まりが減少、結果的に消費者への供給量が減少したのだ。こんなことは23年9月の出来秋の等級調査の際にわかっていたことだ。しかし、農水省は供給の減少を認めようとしない。しかも、24年10月から25年1月まで、民間の在庫量は前年同月比で43万~44万トン減少し、回復していない。これは40万~45万トン程度の先食いが行われたことを示している。
コメ不足は深刻化している
なお、時が経っても前年同月比で同量が不足していることは、コメ不足がどんどん深刻化していることを意味する。10月時点の今後1年間の消費量550万トンに対する40万トンと1月時点の残り10カ月370万トンに対する40万トンでは、後者の不足の方が深刻である。だからコメの値段がどんどん値上がりしたのだ。
第三に、先食いというのは、需要が変化しない(12月末時点での小売事業者の販売数量が同じ)状況の下でも供給が足りないから翌年度に食べるべき量を先に食べるという現象である。終戦後も1945年産米が大不作だったので翌年産米を先食いして飢えを凌いだ。農水省は年間の小売事業者の販売数量は前年と同じなので、南海トラフ地震に備えた8月の一時的な需要増がその後の需要減によって相殺されたと主張しているが、これは需要が変化しないことを述べているに過ぎない。供給が減少していることへの反論になっていない。
最後に、決定的なのは、農水省が昨年8月からの米価の上昇を説明できていないことである。供給も不足していないし、需要も変化していないのに、なぜ米価が上がるのだろうか?
農水省は根拠もなく誰かが投機目的で隠しているという主張をしているが、通常年で起きたことのない現象がなぜ今年起こっているのだろうか。何もないところで価格を吊り上げて売り抜こうとすれば、その業者はJA全農のように市場に影響を及ぼすほどの大量の在庫を持つ独占的な存在でなければならない。大きなウソである。