「スッキリ感」がその後のやる気を削ぐ
「キリのいいところまでやった」という状態は、「仕事がいったん終わった」という達成感や解放感につながります。実は、その「スッキリ感」が翌日や休憩後の再スタートを阻んでしまう可能性があるのです。
いついかなるときでも、スタートダッシュをスムーズに決められる、すぐに切り替えて集中できるという方には無縁な話かもしれませんが、この「なかなか仕事のやる気が出ない」「集中モードに切り替えられない」「休憩気分から抜け出すのに時間がかかる」という問題の解決は、行動経済学にヒントがあります。
そのヒントとなるのは、「エンダウド・プログレス効果」です。「エンダウド・プログレス効果」とは、ゴールに向かって少しでも前進したと感じると、モチベーションが高まり、進み続けたくなる心理です。
この心理を理解する、わかりやすい実験をご紹介しましょう。
南カリフォルニア大学のジョセフ・C・ヌネスらは、一般の洗車場を使って実験を行いました。来場者は、1回の利用で1つのスタンプがもらえます。そこで、次の2種類のスタンプカードのうちどちらかを、それぞれ150人に配布しました。
スタンプが“先に押してある”と意欲が高まる
B 10個スタンプが貯まれば1回洗車無料になるカード(ただし、事前にスタンプが2個押してある)
つまり、AもBも1回分の洗車無料を獲得するまでの回数は、「8回」で同じです。その後3カ月間で、最後までスタンプを集めた人の割合は、Aが19%だったのに対し、Bは34%と、明らかな違いが生まれました(図表1)。スタート時にスタンプが2個押してあるだけで、スタンプがゼロの状態から始めた場合よりも、集める意欲が高まったことになります。

カフェやクリーニング店などで、最初からボーナススタンプが押されたポイントカードをもらったことはないでしょうか。
実質同じ特典であっても、あらかじめスタンプが押してあることで、顧客は「スタンプが2個も無料でもらえた」という心地のいい感情を抱きます。いわゆる「ポジティブアフェクト(前向きなプラスの効果)」が働きます。これにより、スタンプを集めよう=その店やサービスを利用し続けようという意欲が高まるのです。
また、ゴールが近づいたり、終わりが見えてきたりすると、やる気や行動などに弾みがつくことを「目標勾配効果」と呼びます。これも、同じような効果と言えます。