「古い建物は地震で倒れない」本当の理由

伝統構法には、何か地震に強くなる秘密が隠されているのでしょうか。その理由を考えてみましょう。

まず、たくさん残っているように見えて、実はすでに弱い建物は倒れてしまって存在していないという可能性があります。今現在残っているのは、伝統構法のなかでも比較的強いものだけなのかもしれません。

また、そもそも大きな地震を経験していないということも考えられます。いくら伝統構法の建物が古いと言っても、法隆寺のように1000年以上も前からあるものはごくごく稀です。せいぜい100年から200年くらいのものが多いのです。

近辺の断層が大きくズレるのは、数百年どころか数千年に一度という場合もあります。地震を経験していないのであれば、倒れずに残っていたとしてもなんの不思議もありません。

伝統構法の建物が地震の被害を受けやすいということは、2016年の熊本地震でも立証されています。揺れがもっとも大きかった地域での調査によると、伝統構法の建物で無被害だったものは1%しかありませんでした。古いものが多いとはいえ、木造建物全体で21%、2000年以降の建物では62%が無被害だったことを考えると、被害が出やすいのは間違いありません。

2018年の熊本城
写真=iStock.com/Koshiro Kiyota
※写真はイメージです

もっともらしく広められていく誤情報

こうして考えると、伝統構法の建物が現在まで残っているのはたまたまなのでしょう。神仏のご加護があったわけでもなければ、何か現代の科学では解き明かせないすごい秘密があったわけでもなさそうです。

しかし、たまたま伝統構法の建物が被害を受けず、新しい建物が被害を受けた地域があると、やはり伝統構法はすごい、日本の大工はすごい、という説が流れてしまいます。そして質が悪いことに、そうした情報のほうがシンプルなために受けがいい。

では誰がその拡散を止めるのでしょうか。それはごく一部の、心ある建築士です。しかし圧倒的多数のその他の建築士は、むしろ誤情報の拡大再生産を行っています。もちろん間違った情報を広めてやろうという悪意からではなく、正しい情報を届けたいという善意からです。

目の前には伝統構法の建物が無傷で残り、新しい建物が倒壊している。そうした状況において、「伝統構法は別に強くないんですよ、なぜならこういう理由がありまして」と一般の人に納得してもらうのは簡単ではありません。どうしても長々とその理由を説明しなくてはならなくなります。

それよりも、「日本の長い歴史の中で生まれた伝統構法はやっぱりすごかったんですね」という一言のほうがシンプルでわかりやすい。そうして、心ある建築士からの貴重な情報は少数派のキワモノの意見として埋もれていくのです。