東京海洋大学の吉崎悟朗教授らが、ニジマスを代理親にしてヤマメを誕生させる画期的な技術を開発したとして話題になっている。

以前から、魚類では種をまたがる代理出産が可能であることはわかっていたが、今回の技術は冷凍保存したヤマメの精巣から、ニジマスを代理親にして、精子も卵も作ったところがすごい。

「ヤマメのオスから精子の元になる生殖細胞を取り出し、凍結保存。それをニジマスのオスとメスの稚魚に移植した。移植先の稚魚にはあらかじめニジマスの精子や卵を作らないよう不妊処理しておく。するとオスは自分の精巣でヤマメの精子を、メスは卵巣でヤマメの卵を育てるようになるという」(朝日新聞2013年2月5日付朝刊)

この話を理解するにはまず、精子や卵がどのように作られるかを知らねばならない。おそらく一般の人は精子ははじめから精巣の中で作られ、卵は卵巣の中で作られると思っているであろうが、実はそうではないのだ。精子や卵といった生殖細胞は、受精卵が発生をはじめたごく初期に生じる始原生殖細胞から発育する。この細胞は体を作る細胞群からまず最初に分離独立して、残りの細胞がその後でさまざまな器官を作るのだ。精巣や卵巣もこの後の細胞から作られる。精巣や卵巣は中身の精子や卵とは出自が違うのである。

始原生殖細胞は体の後方に生じ、ここから体の中を泳いで精巣や卵巣にまで辿り着き、そこで精原細胞や卵原細胞になり次いで精子や卵になるのだ。

さて、魚より高等な動物は免疫系が発達しているので、通常異種の細胞を移植すると拒否反応が起きて排除されてしまう。ところが生まれたばかりの稚魚は免疫系がまだ確立していないので、稚魚に移植された他種の細胞も排除されない。ニジマスの稚魚に移植されたヤマメの精原細胞は始原生殖細胞と同じ能力を発揮してニジマスの精巣や卵巣に辿り着き、さらに精子や卵になるのである。この話ですごいのは精原細胞から精子ばかりでなく卵も作れることだ。実は精原細胞と卵原細胞はよく似ていて、その後で精子や卵になるときに大きく形が変化する。