町田警察署と警視庁捜査二課が、内田&北田の逮捕に動く

11月に入り、元NTT寮をめぐる不動産の詐欺容疑は固まっていたが、主犯の一人と睨んだその北田の消息が途絶えた。帳場ちょうばを置いた町田署の捜査員たちの焦りは想像に難くない。帳場とは、捜査本部を指す捜査員たちの符牒ふちょうであり、そこに警視庁本庁捜査二課の応援が入り、具体的な捜査を展開する。

「北田が出てくるまで、ガラ(身柄拘束)は無理だ。見つけ次第、一挙にやるぞ」

本庁からそう指示された町田署の捜査員が北田を発見したのが、まさに12月初めの週だった。逮捕日は、検察に身柄を送検するまでの48時間の警察署内の勾留とそこから起訴するまでの検察留置の20日間から逆算して決めるのが、常道だ。12月下旬の仕事納めを考えると、北田の逮捕は年内にできるかどうかという瀬戸際だった。そうして町田署の捜査員が2日、関係各所をいっせいに家宅捜索した。

泡をったのは、もう一人の内田だった。たまたま留守にしていた自宅で、夫人が捜査員に応対した。夫人はすきを見て夫に連絡したようだ。

「北田と連絡が取れないんだ。どこにいるか、知らないか?」

夫人から自らの家宅捜索を知らされた内田は焦り、心当たりのあるところへ片っ端からそう電話をかけた。それが瞬く間に広がり、町田署が手掛ける事件にも内田がかかわっているのか、といううわさが広まった。そして保釈中の内田はそこから行方をくらました。

被害者は世田谷区にある元NTT寮の建物を購入した人物

世田谷の事件は、世田谷区中町にある元NTT寮の売買から始まっている。発生場所と詐欺の犯行現場が町田市だったことから、地面師のあいだでは「町田事件」とも呼ばれるが、本書では「世田谷事件」に統一する。ここでも内田と北田のコンビが暗躍した。

豊川悦司
写真=WireImage/ゲッティ/共同通信イメージズ
ドラマ「地面師」で大物地面師ハリソンを演じた豊川悦司、東京国際映画祭で、2022年10月24日

警視庁の本格捜査が始まったこのとき、内田と北田との連絡が途絶えたのは無理もない。内田が夫人から連絡を受けたときには、すでに町田署に北田をはじめとする4人の犯行グループが勾留されていた。正式な勾留請求は12月4日だったが、事前に身柄を押さえられていたのである。本来、被疑者を逮捕すれば記者発表する。が、警視庁は事件をすぐに公表しなかった。そこには慎重にならざるをえない理由もあった。

「騙されてから2年半、ようやくここまでたどり着いた。この間、警察も信じられなくなり、いっそのこと、町田署の前でガソリンをかぶって焼身自殺をしようかと思ったくらいでした。本当に長かった」

北田たちが逮捕されてほどなく、被害者である不動産業者、津波幸次郎(仮名)に会うことができた。詐欺に遭った当人は、そう本音を漏らした。