「おひとりさま」の老後リスク
雑誌記事などで「おひとりさま」の老後の暮らし方について、1度は見聞したことがあるだろう。気楽な生き方かのような論調も見られ、ある種ブームとなっているようにも思える。しかし、介護生活となると「おひとりさま」は、かなり厄介な生き方になる可能性が高い。しかも、たとえ経済的に裕福だからといっても安心とは限らず、親族や頼れる知人がいなければ苦労することがある。
なぜなら、病院への入院もしくは介護施設等への入居には、親族による身元保証人が必要となることが一般的だからだ。もし依頼できる親族が1人もいなければ、友人もしくは知人に依頼することもできなくはないが。なお、「身元保証人」という呼び名を使用せず、「緊急連絡先」といった名目で求められることもあるが、役割としては同様の意味合いを持つ。
2018年3月厚労省委託事業による調査結果から、介護施設等への入居時に交わす「契約書」において、「本人以外の署名がなくとも、そのまま入所(入院・入居)を受け入れる」は僅か13.4%に過ぎなかった。しかも「本人以外の署名がないままでは入所(入院・入居)は受け入れていない」が30.7%となっており、身元保証人等がいなければ約3割の介護施設等には入居できないことが分かった(図表2)。
経済的な補償もなく、死後対応の負担も大きい
もっとも、身元保証人がいないことで入居を拒む理由とすることは、法令に抵触する可能性が高いため、介護施設側は別の説明をするのが一般的だ。例えば、今、「ベッドが空いていません」など差しさわりのない理由で婉曲に拒否するのである。
なぜ身元保証人が求められるのかというと、経済的な保証という意味合いもあるが、さらに重要な理由がある。それは、亡くなった場合には葬儀や遺骨供養の手続きなど、死後対応も担うことが求められるからだ。なお、介護現場で問題となる「身元保証人」とは、債務者が金銭を返済しない場合に債務者に代わって返済する「連帯保証人」を意味するものではない。
某介護施設の生活相談員に、身元保証人がいない高齢者を受け入れた際の苦労話を聞いた(2022年5月7日)。この施設では身元保証人がいないケースでも、やむなく例外的に受け入れるが、亡くなった際の対応はかなりの負担となるという。葬式等は行わないまでも棺の手配、火葬場へのご遺体の移送、そして、無縁仏への埋葬など、本来、介護施設の生活相談員が担うべき業務を超えて対応しなければならないそうだ。
このような埋葬に関する対応は、通常の要介護者であれば親族らの身元保証人が行うのだが、いなければ全て介護施設側が負うことになる。