惜しみなく与えた応援と愛の分だけ幸せでありたい

熱く推していた誰かに失望して背を向けることもなく、惜しみなく与えた応援と愛が大きな傷のブーメランになって飛んでくることもなく、注ぎ込んだお金と時間の分だけ幸せを得られたら、それでいい。いつも自分を笑顔にしてくれる存在とずっと一緒にいられたら……。こんな願いをぶつぶつ言う必要もなくなれば……。そうなったら、本当にうれしい。

オ・セヨン著、桑畑優香訳『成功したオタク日記』(すばる舎)
オ・セヨン著、桑畑優香訳『成功したオタク日記』(すばる舎)

希望は希望にすぎないという事実がとても悲しい。でも、どうしようもない。推し活がダメになっても、生きていかなければならない。むしろ、もっと良い人生を目指して。

だから、こんなふうに願う。強制的に“オタ卒”する痛みを引きずりすぎることないように。時々思い出して悲しくなるかもしれないけれど、すぐに大丈夫になるように。運がちょっと悪かっただけだから、人を見る目がないと自分を責めないで。誰かに与える心を使い果たしてしまったとしても、すぐにまた充電できるように。純粋に信じるのが難しくなり、不安や疑念に押しつぶされそうになったとしても、もう一度リセットできる力が残っているように。

全力で愛するのは、すごく難しい。でも、やめるのはもっと難しい。だったら、やってみよう。この文章を読んでいるあなたは、何かを愛さずには生きていけない人だろうから。大切な気持ちを失うのは、あまりにも惜しいから。心の傷が膿んで癒える過程を経て、さらに強くなれるように。いつか、ずっと長く一緒にいられる魂の親友に出会えるように。自分自身をもっと愛せるように。そして、自分なりの意味を追い求めつつ「成功したオタク」として生きていけるように。

伝えたいことを言いながら、望みばかりを延々と並べてしまった。でも、お互いを思いやるオタクであれば、きっとこう願っているのではないか。

そんなふうに慎重に考えている。

コンサートで歓声を上げる群衆
写真=iStock.com/egon69
※写真はイメージです
オ・セヨン
映画監督

1999年韓国釡山生まれ。2018年韓国芸術総合学校、映像院映画学科入学。大学を休学して制作した映画『成功したオタク』が監督としての長編デビュー作となる。2021年釜山国際映画祭のプレミア上映ではチケットが即完売。大鐘賞映画祭・最優秀ドキュメンタリー賞ノミネート。本国での劇場公開時には2週間で1万人の観客を動員し、「失敗しなかったオタク映画」として注目を集めた。日本では2024年3月30日に公開。

桑畑 優香(くわはた・ゆか )
翻訳家・ライター

早稲田大学第一文学部卒業。1994年から3年間韓国に留学、延世大学語学堂、ソウル大学政治学科で学び、「ニュースステーション」のディレクターを経て独立。映画レビュー、K-POPアーティストの取材などをさまざまな媒体へ寄稿。訳書に『家にいるのに家に帰りたい』(辰巳出版)、『韓国映画100選』(クオン)、『BTSを読む』(柏書房)、『BEYOND THE STORY: 10-YEAR RECORD OF BTS』(新潮社)など。