〈“末期がん”を宣告された見栄晴(57)が味わった“最後のビール”と入院生活の意外なリアル「痛みはなかったけどツラかったのは…」〉から続く
下咽頭がんのステージ4と宣告され、突然の検査・入院生活を送ることになった見栄晴さん(57)。
副作用との対峙もありながら、計3回の入退院と通院で、現在は初期治療を終えている。
闘病中に「頑張れ」という言葉への見方が変わったという、その真意は……。
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――入院中、体調は安定していたとのことでしたが、メンタル面はいかがでしたか? 落ち込んでしまう方も多いと思います。
見栄晴 大きく落ち込んだことはないけど、さすがにちょっとはありましたね。入院中は体力が落ちちゃうから室内で運動しようと思ってたけど、やる気が起きないとか、そういう細かいこと。
――何を考えることが多かったですか?
見栄晴 入院中はね、治すことしか考えてなかった。放射線を打ってるときも、心の中で「癌死ね、この野郎」って言ったりして。あ、入院中はずっと朝が来るのが楽しみでした。
――それは、生きているという実感からくるもの?
見栄晴 いや、太陽が昇ってからのほうが時間の流れが早く感じるんですよ。点滴やたくさん水分をとるように言われてトイレが頻繁だし、看護師さんが生存確認で1時間に1回まわってくるから敏感に起きちゃうのとで夜眠れなくて。それで朝も起きられなくなっちゃったんですよね。
「すごいすごい! すごく効いてる!」
――それでも2月12日には、予定通り1回目の入院から退院しています。
見栄晴 奥さんに「おかえり」って言われて、照れくさかったって日記に書いてある。今までは酒飲んで夜中にそっと帰ることが多かったから、「おかえり」なんて言われたことなかったんですよね。
夕飯にグラタンをリクエストして作ってもらったんですけど、食べたときに味が薄く感じて「ちょっと味覚が落ちてるかも」って気がつきました。入院中も若干味が薄いとは思ってたんだけど、病院食だからかなぁと。でも、いつものグラタンを食べて薄く感じるってことは……って。
――1回目の入院では出なかった副作用が。
見栄晴 そうですね。でも退院翌日に診察があって病院に行ったら、放射線科の先生が喉の写真を見ながら「すごいすごい! すごく効いてる!」って手を叩いて大喜びしてくれて。それがすごく嬉しかったんですよね。
多分あの喜んでくれている先生の顔って、僕の中で死ぬまで消えない。あのとき、この先生のためにも頑張ろうっていう気にもなったし、たった1週間だけど、やっぱりこの先生についてきてよかったって思えました。本当に包容力と明るさがある方でした。
で、そのあと退院したから好きなもの食べに行こうと家族3人でお寿司に行ったら、今度はなんの味もしなかったんです。醤油の味もしなくて、食感しかない。穴子のタレの甘みと、娘に一口もらったアイスの甘味だけは少し感じたから、甘味だけ少し残ってるんだなって。人によって塩味だけ残ったり、いろんなパターンがあるらしいです。