完璧を求めるがあまり、インポスター症候群になる

インポスター症候群の人は、次のような傾向があります。

・自分を客観的に振り返る余裕がなく、周囲の期待に応えようと必死で努力を続ける
・自分の成功や実績よりも、過去の失敗や不足点に注意がいく
・「いつか失敗してしまうかもしれない」といつも考えている
・成功は、運や周囲のおかげで、自分の能力によるものではないと考える
・周囲の評価は、自分にはもったいないと思う
・プライベートでも仕事のことを考えている
・失敗や批判が怖いのでチャレンジしない

なぜ、誰もが認める実績があるのに、このように考えるのでしょう。

その背景には、強い責任感や完璧主義があるといわれています。さらに、「不安型愛着障害」があるケースも。

これは、子どもの頃に親と安定した関係を築けなかったせいで、常に不安を抱えている状態です。ほかにも、こんな背景があると報告されています。

・親や周囲からほめられることが少なかった
・「女性は女性らしく控えめに」といわれて育った
・昔から、よく孤独感や劣等感を感じた

……どうでしょう。「あれ⁉ これって私にも当てはまるかも」と思った方も少なくないのではないでしょうか。

謙遜さんには、成功できる資質がある

とはいえ、もちろん「当てはまる要素がある=インポスター症候群」ではありません。この症候群の研究ははじまってまだ間もなく、専門家でもさまざまな見解があります。また「症候群」と名づけられていても、必ずしも「病気」でもありません。

くわしくご紹介したのは、自分を知る手がかりとしていただきたいからです。

当然ながら、インポスター症候群によるマイナス感情のせいで生活に支障をきたすなら、カウンセラーなど専門家のサポートが必要です。

しかし、ちょっと視点を変えてみましょう。

すると、この症候群のポジティブな側面もみえてきます。

このような気質が、人生を前進させる推進力となっている場合もおおいにあるのです。

田中遥・加藤紘織『「どうせ私なんて……」がなくなる「謙遜さん」の本』(飛鳥新社)
田中遥・加藤紘織『「どうせ私なんて……」がなくなる「謙遜さん」の本』(飛鳥新社)

たとえば、「過大評価されている」と思うから、人知れず努力して結果が出せます。また、失敗を怖れるから、リスクヘッジができてトラブルに対処できます。

つまり、「自分はまだまだだ」と思っているからこそ人一倍努力し、失敗しないように細心の注意を払い、成功できるわけです。

社会的に活躍している方が、この症候群に名を連ねているのもうなずけますね。

もちろん、みなさんも自分の気質や考え方の癖を把握し、バランスを取るよう意識すれば、自らの資質をいい方へ活かせます。

ですから、たとえ謙遜しすぎる傾向があったとしても悲観することはないのです。

田中 遥(たなか・はるか)
ベスリクリニック院長・心療内科医・産業医

福島県立会津高等学校、東京慈恵会医科大学医学部卒業。ベスリクリニック、ベスリTMS横浜醫院にて勤務。医師、産業医としてビジネスパーソンのメンタルヘルスに従事している。単に病気がよくなる医療ではなく、どのように生きるかを追求する医療を目指している。医療法人ベスリ会理事長。

加藤 紘織(かとう・ひろお)
保健師・看護師

1996年、茨城県古河市生まれ。高校卒業後、家族が病気を患い入院したことをきっかけに、人々の健康を支える看護師を志す。また保健師の資格を取得。現在、ベスリTMS横浜醫院にて、保健師、看護師として勤務。睡眠外来、PMS(月経前症候群)やPMDD(月経前不快気分障害)などのケアに従事している。