ハイウェイに並ぶ棺桶

今度は、イメージが浮かぶような具体的な引用例を見てみましょう。ここでは、もうひとりの引用名人、デール・カーネギーが著書『心を動かす話し方』の中で学生の言葉を紹介していた例をお見せしましょう。

「ハイウェイでおこる自動車事故の恐ろしい死者数を、こんな地獄絵にしてみせてくれました。

あなたはいまニューヨークからロサンゼルスに向かって大陸を横断しています。その道筋のハイウェイの標識の代わりに、棺桶がたっているものと考えてみてください。その棺桶には、昨年の自動車事故の犠牲者が、ひとりずつ入っています。あなたの車は、5秒ごとにひとつずつこの陰気な標識のそばをかすめて行きます。というのは、それを1マイル(1.6km)に12個の割合で置くと、大陸の端から端まで、ズラリと縦に並べることができるからです!」

この話を聞いたカーネギー氏は、車に乗るたびにその絵が浮かんでしまった……ということでした。

とてもインパクトの強い引用で、実際に目にしていなくとも、大陸に一直線に並ぶ棺の姿が目に浮かびます。その光景が目の裏に焼き付いて、棺桶の中のひとりにならないように交通安全に努めたくなるというもの。交通安全を訴えるという目的には、かなり効果を発揮しそうです。

こんなふうに、実際は目にしていないのに鮮明にイメージが浮かびそうな表現があったなら、すかさず引用してみましょう。言葉にして鮮烈なインパクトを残すことができるようになります。

車の事故現場
写真=iStock.com/Tashi-Delek
※写真はイメージです

引用を明らかにしてストーリーに乗せる

「どうせいつ死ぬか知れぬ命だ。なんでも命あるうちにしておく事だ。死んでからああ残念だと墓場の影から悔やんでもおっつかない」

潔いこの言葉、発しているのは猫。

ご存じ、夏目漱石の『吾輩は猫である』の終わり近くの一節で、猫が人間を真似て思い切ってビールを飲む場面の心情です。

こうした場面は、引用元を明らかにしてストーリー仕立てで伝えると物語性が出るため、場面も目に浮かんで効果的です。ただ、そもそもこれが猫の心情という特殊な状況なら、まずは引用から入って種明かしをするのもおもしろいかと思います。

なんでも思い切って挑戦すべきだ、あるいはよく耳にする「人生最後の日のように生きる」をちょっと皮肉にした場面。その結果、うかつにかめに落ちて死んでしまう不条理なオチも描かれています……と、その先まで伝えられたらより深みが増します。