ニュース番組が視聴者を引きつけるテクニック

読者・視聴者を引き込む力についての章(第8章)で述べたように、(ネットワーク)テレビのニュースはその独占をケーブルテレビに崩される中、視聴者を引きつけるために様々なテクニックを用いた。

朝のニュース番組は芸能、娯楽、ライフスタイル、クロスプロモーション(自社メディアで自社系列の製品・サービスを紹介する手法)に著しく重点を置いた。夜のニュース番組はある時期、娯楽や芸能の話題を増やすために市民としての問題に関する報道を減らした。

ただこの動きは2001年9月11日のテロ攻撃後、目に見えて減った。さらに最近、報道内容のバランスに同様の影響を与えたのがトランプ時代とコロナ禍だったが、トランプ後の世界でこれがどうなるか分かるのはまだ先だ。

別のテクニックは、視聴者がどう感じるべきかをテレビニュースの話し手が言うことにより、視聴者とつながりを作ろうとすることだ。報道の中に感情的な用語をちりばめるのだ。「衝撃の」「恐るべき」「悲惨な」などの言葉、「全ての親は聞くべき深刻な警告」などの語句だ。

ある朝を無作為に選び三大ネットワークテレビの番組を調べたところ、番組内の最初の5つの話題の説明だけでこれらの単語を30回使っていた。キャスターによる導入や締めの部分に多かったが、取材に話した人がこれらの単語を使った場面をサウンドバイト(印象的な短い発言紹介)として選んだ場合もあった。

感情を爆発させたCNN司会者は大出世

感情や、あるいは怒りさえも、露わにすることが個々の記者にはキャリアアップの材料となり、パディ・チャイエフスキーの映画『ネットワーク』に出てくる架空のキャスター、ハワード・ビール――「絶対に許せない、もう我慢ならない」と放送で叫ぶようになってから人気が上がった――が示す感情のように読者・視聴者とのつながりを生み、人間味を示す。

こうした感情の爆発は最初は本心かもしれないが、利用している場合もあろう。CNN司会者アンダーソン・クーパーは2005年のハリケーン・カトリーナの問題をめぐる憤りとその被災者への共感という強烈な感覚をはっきり見せた後に、同局のメインのプライムタイム司会者に登用され、クーパーがニュースに感情的な反応を見せる場面は宣伝に使われた。

コロナ禍の間、彼は同局が全国各地で何度も開いた市民討論会のトップ司会者でもあり、政治家による討論の司会でもあったが、そこでの彼の感情的な在り方は政党色が強いとも受け止められた。

言論界に新しく生まれた情熱を、様々なウォッチャーたちが賞賛した。一方、感情を排して事実を伝えるというジャーナリズムの100年にわたる貢献は時代遅れなのかという疑問も出た。これもまた、私たちが第4章で論じた客観性の問題をめぐって起きた別の動き、あるいは誤解である。