非軍事の法執行機関であることを内外に示すことが重要

庁法25条は、海上保安庁が疑いなく非軍事組織の法執行機関であることを内外に広く示す役割を担っています。領海警備の第一線でそうした非軍事の法執行機関が対処することにより「事態は法とルールに基づいて解決すべきであり、我が国は軍事的解決を志向していない」という旨の国家意思を示すことができるわけです。

また、有事下において、内閣総理大臣が特別の必要があると認める場合には、海上保安庁は住民の避難・救援といった国民保護措置や、海上における人命の保護等の役割を果たすことになっています。しかし、その際に海上保安庁の巡視船等が「軍事目標」になってしまっては、国民の生命を守ることが難しくなります。

有事にいたる前から一貫して海上保安庁は非軍事組織であること、軍事活動を行わない組織であることを内外に示しておく役割を果たすものが庁法25条であり、それを裏付けるのが海上保安庁の日々の非軍事的な活動なのです。

(*世界でも)海上における法執行活動のメインプレーヤーは今では軍からコーストガードへと変わり、しかも軍とは別の組織のコーストガードが多数派です。いまやコーストガードの存在は、紛争解決の手段として「軍事」「外交」に次ぐ“第三のカード”になると期待されています。

海上保安庁の船
写真=iStock.com/Yata
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各国のコーストガードと連携・協力の取り組み

ご存じの通り、現在日本は「自由で開かれたインド太平洋(FOIP:Free and Open Indo-Pacific)」の実現を推進しています。

FOIPとは、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序を維持・強化することで、インド太平洋地域を国際社会に安定と繁栄をもたらす「国際公共財」にするための取り組みである、と外務省のHPなどでは説明されています。もう少しわかりやすく言うと、「力で現状変更するような勢力を認めず、法とルールを重視する国、つまり日本と同じような価値観の国を増やして国際社会の安定化を図ろう」ということです。

FOIPにおいて、海上保安庁は、

・各国海上保安機関との連携の強化
・各国海上保安機関の海上保安能力向上

という2つの柱の取り組みを進めてきました。

1つ目の柱である「各国海上保安機関との連携の強化」には大きく分けて、2国間の取り組みと、多国間の取り組みがあります。

まず2国間の連携・協力に関して言うと、海上保安庁は、アメリカ・ロシア・中国・韓国・インド・フィリピン・ベトナム・オーストラリア・インドネシア・フランスという地政学上重要な10カ国のコーストガードとは、覚書、協定により2国間の枠組みを構築し、両機関のトップ同士が意見交換をしているほか、実務的な連携・協力も行っています。