「弱者男性」とはどんな人たちなのか。ライターのトイアンナさんは「弱者男性」と自覚している50人以上をインタビューした。著書『弱者男性1500万人時代』(扶桑社新書)より、上場企業で年収1000万円以上を稼いでいる30歳男性のケースを紹介する――。(第1回/全2回)
オフィスで落ち込む男性のシルエット
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貧しくなった日本で誕生したネットスラング

まずはじめに、「弱者男性」という言葉が生まれた時代背景に触れてみよう。

急激な社会情勢の変化に伴い、一億総中流と言われた日本は過去の遺物となった。2018年のデータでは、日本人の6人に1人が世帯年収127万円以下の貧困状態にある。なんと、100人に1人の日本人は、1日210円未満で暮らしている。弱者男性とは、こうした社会の荒波にまぎれ、インターネットから新たに誕生した言葉である。

かれらは、日本社会のなかで独身・貧困・障害といった「弱者になる要素」を備えた男性たちだ。ただし、年収○○万円以下といった数値で厳密に定義されているわけではない。

弱者男性がネットスラングから誕生した言葉であるからには、数字で割り切れる定義を持たないのだ。逆に、「誰が弱者男性か」を数量的に定義してしまうことで、弱者男性の枠から切り捨てられてしまう男性が出てきてしまう。

年収2000万円でも「弱者」な男性はいる

むしろ、あらゆる男性が持つであろう「弱者性」にハイライトを当てるため、この言葉が生まれたといっていい。

たとえば、年収2000万円の男性がいたとしよう。それだけの年収があれば初見では間違いなく「強者男性」と呼ばれるだろうが、その年収の大半を妻からのDVによって奪われ、本人に経済的自由がまったくない場合はどうだろうか。そのような男性のことを、決して「強者」とは呼べないのではないか。

弱者男性とは、こういったさまざまな事情を抱えた男性を包含する、大きな言葉であることをまず明確に示したい。

このような大前提を置いたうえで、それでもあえて本書では「弱者男性の人口」を推定する。背景には2つの理由がある。まず、弱者男性の数を多くの人が少なく見積もっており「気にするほどでもない数」と、切り捨てている可能性があるからである。