労働市場の専門家・古屋星斗氏は、「AIが人間の仕事を奪う」というAI脅威論は、日本では当てはまらないという。2040年に1100万人の働き手が不足する日本では、むしろ仕事の自動化を急速に徹底していかなければ、生活に必要なサービスが提供されなくなってしまう。「機械か人間か」という二者択一ではなく、「人が機械の力でもっと活躍できないか」という考え方をする必要があるという――。

※本稿は、古屋星斗+リクルートワークス研究所『「働き手不足1100万人」の衝撃』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

2040年に1100万人の働き手が不足する

これから日本では、どれくらい働き手が足りなくなるのか――。

労働の需要と供給をシミュレーションしたところ、労働供給不足は2030年に341万人余、2040年には1100万人以上に及ぶという結果が示された。

このように労働供給が減少していくことによって発生する労働供給制約という問題は、成長産業に労働力が移動できない、人手が足りなくて忙しいというレベルの不足ではない。結果的に、運搬職や建設職、介護、医療などの生活維持にかかわるサービスにおいて、サービスの質を維持することが難しいレベルでの労働供給制約が生じるのである。

この労働供給制約という途方もなく大きな課題を解決するためのアプローチは、「需要を減らす」か「供給を増やすか」のどちらかだ。

労働の可能性を転換する「機械化・自動化」

私たちリクルートワークス研究所では労働供給制約社会に向けた打開策として、4つの打ち手を示した。「機械化・自動化」「ワーキッシュアクト」「シニアの小さな活動」「仕事におけるムダ改革」である。

4つの解決策を提案した理由は、労働の需要をいかに減らすかという論点と、供給をいかに増やすかという論点を一体で語ることなしに解決不可能な水準の労働供給制約が、十数年後に迫っているからだ。

労働供給量を増やすというのは、つまり担い手をいかに増やすのかという問題だ。私たちはこの担い手には、人間だけでなく「機械」が入ってくると考える。機械と人間が有機的に連携して、新しい働き方をつくり出す必要がある。

解決策のなかでも、とくに機械化・自動化は人の「仕事」「労働」の可能性を転換する可能性を秘めている。そのポイントは以下の3点だ。

①長時間労働から人を解放することにつながる
②仕事・労働の身体的な負荷が下がる
③タスクが機械へシフトしていくことで、人はその仕事が本来必要とする業務に集中することができる

労働供給の担い手を考える際には、「どの人がやるのか」だけでなく「機械ができないか」、はたまた「機械の支援を受けた人ができないか」といった選択肢を持つことができる。

必要な発想は、「人間がいないから機械に」とか「機械か社員か」という二者択一というより、「人が機械の力でもっと活躍できないか」という“拡張性”の思考なのだ。

“人にしかできない仕事”に人の力を活かす

少子高齢化による労働供給制約は今後ますます深刻化していく。近年、女性や高齢者の労働参加が進んでおり、限りある労働力を有効に活用する取り組みは徐々に進んできているものの、それと並行して今後は、“人でなければできない仕事”にこそ人の力を活かさなくてはならない。

そこで機械化・自動化技術の導入によって人手不足を補えないか、という議論が盛んになっている。もちろん、AI(人工知能)やロボットによって仕事が代替されることに関して、雇用が奪われるというネガティブなイメージを抱く人も少なくはない。

しかし、労働供給制約社会を迎える日本においては、むしろ仕事の自動化を急速に徹底していかなければ、生活に必要なサービスが提供されなくなる事態に陥ってしまう。どんどん生成AIやロボットに人間の仕事を奪ってもらわないと、日本は生活維持サービスが保てないのだ。

将来的には、AIやロボットによる労働力を活用し、これまでの「労働力」という概念を拡張していくように、考えを変えていく必要がある。

“人間が働く場にAIやロボットを導入する”のではなく、そもそも“AIやロボットが働きやすい(機能しやすい)仕組みをつくる”、そのうえで人間が人間にしかできない仕事をする発想が重要になる。

AIやロボットを用いて、これまで人が担っていた仕事を機械の力を借りていかに効率化するか。それは生産性向上といったビジネス面だけでなく、私たちの生活にとって解決しなければならない課題である。

オフィスにいる女性とAIロボット
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