「集団毛づくろい」は親密な感情が生まれる

面白いのは、この受容体が人間に1番近い親戚、ゴリラやチンパンジーにもあることです。彼らは起きている時間の実に20%近く、お互いの毛づくろいをしています。毛づくろいする方もされる方もエンドルフィンが放出されていて、親密な感情が生まれるのです。そうやって群れの1頭1頭がお互いに毛づくろいをすることで1つのグループとしてまとまっています。このように人間もサルも相手を優しくなでるわけですが、それが重要な社会機能を担っているのです。

ゴリラやチンパンジーは通常20~30頭の群れで暮らし、お互いに毛づくろいをして絆を強めますが、人間の祖先はそれよりも大きな人数のグループでまとまらなくてはいけませんでした。規模にして150人くらいが普通だったようで、他の動物よりも大きなグループで協力し合えるのが強みでした。しかし毎日グループの全員をなでていては、食べ物を集めたりする時間がなくなってしまいます。

つまり人間には2人を超える人数で、エンドルフィンが放出されるような「集団毛づくろい」が必要だったのです。

ハマドリアヒヒ
写真=iStock.com/Phillip Wittke
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一緒に笑うことは集団毛づくろいと同じ

人間にとってちょうど良い群れのサイズが150人程度だということを算出したのは、イギリスの人類学者ロビン・ダンバーでした。そのことから、安定した社会的関係を築ける150人という数は「ダンバー数」と呼ばれています。人間にとっての集団毛づくろいは「笑うこと」だと最初に考えたのもダンバーでした。

ダンバーは、お互いに知り合いではない人たちに映画館で映画を観てもらう実験を行いました。あるグループには面白いコメディーを、同じ人数の比較グループには長くて退屈なドキュメンタリーを観てもらうという実験で、ダンバーの推測が正しければ、一緒に笑った人たちは比較グループよりも多くのエンドルフィンが放出されているはずです。それを確かめるため、映画を観た後に氷水の入ったバケツに手を入れてもらいました。エンドルフィンには痛みを和らげる効果がありますから、笑ったグループの方が長いこと水の冷たさを我慢出来るはずです。結果、その通りになりました。