「職階が低い人ほど不健康」は本当か

まず、海外の研究例から見ていきましょう。管理職で働くことの影響を分析した代表的な研究にブリティッシュ・ホワイトホール・スタディがあります。この研究ではイギリスのロンドンの公務員を対象に、健康に影響を及ぼす要因を幅広く検証しました。ちなみに、ホワイトホールとはロンドンの中央官庁、ダウニング街、英議会議事堂ウェストミンスター宮殿などをとおる道路を指しており、日本でいうところの霞が関といった感じです。

この研究は1万人以上を継続して追跡調査しており、その豊富なサンプルを活用した分析結果はその後の研究に大きな影響を及ぼしました。研究結果の中でも健康と仕事の関係を見ると、興味深い分析結果が得られています。

低い職階で働く人ほど心疾患のリスクが高く、死亡率の上昇やメンタルヘルスの悪化につながることがわかったのです(*2)

この結果は「低い職階=低い健康度」を示しているわけですが、言い換えれば、「高い職階=高い健康度」という関係があることを意味します。背景にあるロジックはこうです。

高い職階だとお金もあり、健康に気を遣うことができます(例:お昼はジャンクフードじゃなく、少し高くてもいいから栄養価の高い食べ物にしよう)。また、高い職階だと職場内の権限も大きく、仕事の進め方もコントロールしやすくなります。これらが総じて健康にプラスに影響するというわけです。

「高い職階=高い健康度」という結果は、シンプルでわかりやすく、多くの人を納得させるものでした。しかし、ブリティッシュ・ホワイトホール・スタディの研究には懸念が一つありました。

それは調査対象の範囲です。

健康診断シート
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです

真逆の結果を示す研究

ロンドンの公務員が調査対象者であったわけですが、民間企業の労働者が抜け落ちていますし、地域もロンドンという都会のみで、その他地域の状況がわかりません。日本にたとえれば、霞が関の官僚のみを分析対象としているものであり、そのほか多くの民間企業で働く人々がスポッと抜け落ちている状況でした。さすがにこれでは対象範囲が狭いかなと思わざるをえません。

そこで、この課題を認識した研究者が一国全体の民間企業も調査対象に含めたデータを用い、管理職で働くことの影響を検証しようと考えました。そして、実際にいくつかの研究が発表されました。

これらの研究結果は非常に興味深いものでした。なぜなら、ブリティッシュ・ホワイトホール・スタディとは真逆の結果だったからです。