※本稿は、佐藤一磨『残酷すぎる幸せとお金の経済学』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
子どもの存在は高齢の親の幸せにどう影響するか
さて、以前の記事では子育て期の親を念頭に、その生活満足度について述べましたが、子どもが巣立ち、親が年老いた場合、子どもの存在は、親の幸せにどのような影響を及ぼすのでしょうか。
子育てにともなう金銭的・時間的・肉体的な負担は、子どもの成長とともに変化します。子どもが小さいときは時間的・肉体的な負担が大きく、ある程度成長すると今度は金銭的な負担が大きくなります。そして、子どもが働き出したタイミングで子育てが一段落つき、さまざまな負担から解放されることになります。
その後、親が高齢になると、今度は逆に子どもから親へさまざまな支援が行なわれる場合があります。支援には金銭的なものもあれば、ふだん生活する上での手助けや家庭での介護も含まれます。これ以外にも、子どもの存在が孤立を防ぎ、社会の人々と交流するための重要な役割を果たすとも指摘されます(*1)。
以上から明らかなとおり、親が高齢になると子育てにともなう負担が減少すると同時に、子どもからの支援が期待できるようになるわけです。
これは、「子どもの存在が高齢の親の幸福度に大きなプラスの効果をもたらす可能性がある」ことを意味します。
はたして実態はどうなのでしょうか。こちらもデータを使って定量的に検証したいと思います。
子育て期がすぎても子どもの存在は親にマイナスの影響
図表1は、60歳以上の子どものいる既婚者と子どものいない既婚者の幸せの度合いを比較したものです。分析対象は既婚女性約4500人、既婚男性約5300人であり、分析対象期間は2009~2018年です。なお、図表1では幸せの指標として、生活満足度を用いています。ここでは0~10の11段階で生活満足度を計測しました。
この図から、「男女とも、子どものいる高齢既婚者のほうが生活満足度が低い」ことがわかります。
もちろん、子どもによる生活満足度へのマイナスの影響は、現役世代の場合よりも小さくなっています。ただ、マイナスの影響を持つ点は、変わっていません。子どもの存在が高齢者の生活満足度の向上につながっているとは言いがたい状況です。
高齢期においても子どもの存在が生活満足度を押し下げるというこの結果は、かなり衝撃的です。