子どものいない女性の幸福度が上昇した理由
なぜ子どものいない既婚女性の幸福度は上昇したのでしょうか。この背景には、「結婚したら子どもを持つべき」という社会的なプレッシャーの低下が影響していると考えられます。
国立社会保障・人口問題研究所の『出生動向基本調査』によれば、「結婚したら子どもを持つべきか」という問いに対して「どちらかといえば反対」「まったく反対」と回答する割合が2002年で22.4%だったのですが、2015年には28.9%へと上昇しています。また、この間、妻が45~49歳の夫婦で、子どものいない割合が4.2%(2002年)から9.9%(2015年)へと増えています。
子どものいない夫婦が着実に増えており、以前よりも受け入れられやすいライフスタイルになっています。これが子どものいない既婚女性の幸福度の上昇に寄与したと考えられます。
米国では子持ち女性の幸福度が上昇
日本では子持ち既婚女性と子どものいない既婚女性の幸福度の差が変化していないか、もしくは拡大傾向にありますが、アメリカでは逆に縮小傾向にあることがわかっています。日本とはちょうど真逆です。
この点はアリゾナ州立大学のクリス・ハーブスト准教授らが分析を行なっています(*8)。彼らの分析によれば、アメリカでは子持ち女性の幸福度が経年的に変化していないものの、子どものいない女性の幸福度が低下傾向にありました。この結果、子持ち女性と子どものいない女性の幸福度の差が縮小したのです。
ここで気になるのは、なぜ子どものいない女性の幸福度が経年的に低下したのか、という点です。
この点に関して、ハーブスト准教授らは、子どもを持つことがコミュニティとのつながりや政治への関心、友人との交友関係を維持し、幸福度の向上につながる可能性があると指摘しています。子どもがいない場合、社会や人とのつながりが狭くなり、これが幸福度低下の原因となるわけです。
アメリカでは子どもの存在が他者とのつながりを広げる機能も果たしていると考えられます。日本でも子どもの存在が交友関係を広げるきっかけになると考えられますが、それが親の幸せにつながるかどうかは、明確にはわかっていません。いずれにしても、子どもが社会や家庭で果たす役割が日米では異なっている可能性があります。
以上、これまでの話を整理すると、日本ではこれまでさまざまな少子化対策が実施されており、育児・就業環境は以前より改善してきていますが、子どもを持つ女性の幸福度が低下するという傾向は変わっていません。この背景には、少子化対策がまだ不十分である可能性があると言えるでしょう。
*1)① Huijts, T., Kraaykamp, G., & Subramanian, S. V.(2013). Childlessness and psychological well-being in context: A multilevel study on 24 European countries. European Sociological Review, 29(1), 32–47. ②Dykstra, P. A.(2009). Older adult loneliness: Myths and realities. European Journal of Ageing, 6(2),90–101.
*2)Yamamura, E., & Brunello, G. (2021). The effect of grandchildren on the happiness of grandparents: Does the grandparent’s child’s gender matter? IZA Discussion Paper, 14081.
*3)八重樫牧子・江草安彦・李永喜・小河孝則・渡邊貴子(2003)「祖父母の子育て参加が母親の子育てに与える影響」『川崎医療福祉学会誌』,13(2), 233-245.
*4)Brunello, G., & Rocco, L. (2019). Grandparents in the blues. The effect of childcare on grandparents’ depression. Review of Economics of the Household, 17, 587–613.
*5)Dunifon, R. E., Musick, K. A., & Near, C. E. (2020). Time with grandchildren:Subjective well-being among grandparents living with their grandchildren. Social Indicators Research, 148(2), 681–702.
*6)Powdthavee, N. (2011). Life satisfaction and grandparenthood: Evidence from a nationwide survey. IZA Discussion Papers, 5869.
*7)Wang, H., Fidrmuc, J., & Luo, Q. (2019). A happy way to grow old?Grandparent caregiving, quality of life and life satisfaction. CESifo working paper series, 7670.
*8)Herbst, C. M., & Ifcher, J.( 2016). The increasing happiness of U.S. parents.Review of Economics of the Household, 14(3), 529–551.
1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。