なぜ昇進しても幸せになれないのか

なぜ管理職に昇進しても幸福度は上昇しないのでしょうか。この理由として、仕事から得られる報酬と負担が相殺そうさいし合っている可能性が考えられます。

佐藤一磨『残酷すぎる幸せとお金の経済学』(プレジデント社)
佐藤一磨『残酷すぎる幸せとお金の経済学』(プレジデント社)

管理職へ昇進すれば確かに年収は上がりますし、対外的な地位も向上します。地位が高くなることによって達成感を得ることができるでしょう。また、家族がいれば昇進の喜びを分かち合うこともできます。

しかし、同時に業務量や労働時間、責任が増え、苦しくなっているのではないでしょうか。

自分の仕事に加え、部下のマネジメント業務も加わり、やることは増えていきます。また、近年ではセクハラ、パワハラにならないよう注意も必要となるため、神経をすり減らすことも増えているでしょう。

さらに、働き方改革関連法の施行によって時間外労働の上限規制が強化され、残業がしにくくなっている中、終わらなかった仕事を管理職が引き受けている可能性があります。これも管理職の負担を増大させる一因となっていると考えられます。

管理職になりたくなくて当然

このように、管理職になることのプラスの効果とマイナスの効果が相殺し合い、幸福度が上昇していないと考えられるのです。このような状況が続けば、男女問わず管理職になりたいと考える人が減ってしまっても不思議ではありません。

これらの課題に対処するためにも、管理職の労働環境の改善が重要になってきます。

まず、簡単ではないでしょうが、業務量や労働時間の軽減を検討する必要があります。これに加えて、金銭的な報酬も増加させる必要があるでしょう。「なんとか管理職に昇進したのに、大変なだけで割に合わない」。このような実感を持たれないためにも、管理職の待遇改善が求められます。

(*1)厚生労働省(2018)『平成30年版 労働経済の分析』第2-(3)-27図 役職に就いていない職員等における管理職への昇進希望等について.
(*2)①Marmot, M. G., Bosma, H., Hemingway, H., Brunner, E., & Stansfeld, S.(1997). Contribution of job control and other risk factors to social variations in coronary heart disease incidence. Lancet, 350(9073),235–39.
②Stansfeld, S. A., Fuhrer, R., Shipley, M. J., & Marmot, M. G.(1999). Work characteristics predict psychiatric disorder: Prospective results from the Whitehall II study. Occupational and Environmental Medicine, 56(5), 302–7.
③Ferrie, J. E., Shipley, M. J., Stansfeld, S. A., & Marmot, M. G.(2002). Effects of chronic job insecurity and change in job security on self reported health, minor psychiatric morbidity, physiological measures, and health related behaviours in British civil servants: the Whitehall II study. Journal of Epidemiology and Community Health, 56(6), 450–54.
(*3)B oyce, C. J., & Oswald, A. J.( 2012). Do people become healthier after being promoted? Health Economics, 21(5), 580–96.
(*4)Johnston, D. W., & Lee, W.-S. (2013). Extra status and extra stress: are promotions good for us? Industrial and Labor Relations Review, 66(1), 32-54.
(*5)Nyberg, A., Peristera, P., Westerlund, H., Johansson, G., & Hanson, L. L. M.(2017). Does job promotion affect men's and women's health differently? Dynamic panel models with fixed effects. International Journal of Epidemiology,46(4), 1137-1146.
(*6)佐藤一磨(2022)「管理職での就業は主観的厚生と健康にどのような影響を及ぼしたのか」, PDRC Discussion Paper Series, DP2022-002.

佐藤 一磨(さとう・かずま)
拓殖大学政経学部教授

1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。