管理職に昇進しても幸福度は上がらない
日本については私が行なった分析から、次の三つの結果が得られています(*6)。使用したのは、慶應義塾大学が実施している『日本家計パネル調査』というデータです。このデータの2011~2020年までの男性約1万4000人、女性約1万3000人を分析対象とし、管理職への昇進と幸福度や健康の関係を分析しました。なお、分析対象の年齢は、退職前の59歳以下です。
まず一つ目の結果は、「管理職に昇進しても幸福度は上昇しない」というものです。この結果は男女両方に共通しており、昇進1年前から昇進3年後時点まで幸福度の増加傾向は確認できませんでした。残念ながら「管理職に昇進することが幸せにつながる」という明確なエビデンスはなかったのです。
二つ目の結果は、男女とも管理職で働くことで年収が増加したのですが、所得に対する満足度は上昇していないというものでした。年収は増えたけど、満足していない。これは、管理職で働くことの金銭的な報酬が十分ではない可能性を示しています。
また、管理職で働く女性のみの場合で、余暇時間満足度と仕事満足度が低下していました。女性の場合、管理職への昇進後、余暇時間の質や量が低下したり、仕事の負担が重くなって「しんどい」と感じることが多くなったと考えられます。背景には、女性が管理職として働く環境が十分に整備されていないか、家庭との両立が難しいといった点が影響していると予想されます。
男女ともに昇進の数年後に健康度が悪化
三つ目の結果は、女性では管理職に昇進した2年後、男性では管理職に昇進した1~3年後に自己評価による健康度が悪化したというものでした(図表1)。図表1は1~5の5段階で評価した健康度が管理職への昇進後にどう変化したのかを示しています。この図では0より小さい値だと健康度が悪化したことを意味するのですが、男女とも昇進してから健康度が悪化しています。
昇進直後だと環境の変化もあって疲れ気味になり、健康度が悪化するのはわかるのですが、それが数年間にわたるということは、そもそも管理職が忙しく、健康を代償にしないと続けられない職務内容だと考えられます。これでは管理職になりたくない人が増えるのも納得できます。
以上の結果をまとめると、「日本では管理職に昇進しても幸福度は上昇しないし、健康状態は悪化する」と言えます。