なぜ管理職になりたくない人が多いのか。拓殖大学教授の佐藤一磨さんは「日本のデータを分析すると、昇進で給料はアップするが幸福度は上がらず、健康状態が悪化する結果となった。大変なだけで割に合わないというのが実態ではないか」という――。

※本稿は、佐藤一磨『残酷すぎる幸せとお金の経済学』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

オフィスのチェアーに座ったまま思い切り背伸びをしている女性
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仕事と幸せの関係

みなさんは『宇宙兄弟』というマンガをご存じでしょうか。

小山宙哉先生の作品で、主人公の南波六太が上司に頭突きをしてしまい、会社を退職したあと、宇宙飛行士を目指すという物語です。この作品は一介のサラリーマンだった男性が宇宙飛行士になるまでのサクセスストーリーを描いており、マンガだけでなくアニメや実写映画にもなった大ヒット作なので知っている人も多いでしょう。

この作品の中で、主人公の南波六太にとって宇宙飛行士は「ドリームジョブ=夢の仕事」であり、苦労は多々あれど、宇宙飛行士として働くことが幸せにつながっていると考えられます。彼の例は、仕事をとおして自己実現や社会的名声を得ており、まさに「仕事=幸せ」という関係が見られるケースでしょう。

しかし、彼のような例は稀なのではないでしょうか。

現実世界を見ると、「仕事=幸せ」という関係があるか怪しいところです。というのも仕事は大変なことばかりです。長い労働時間、十分ではない賃金、求められる高い成果、上司をはじめとした職場の人間関係、セクハラやパワハラのリスクなどなど、ネガティブな要素にこと欠きません。お金のためと割り切って働き続けている人も少なくないのではないでしょうか。

管理職になりたくない人が多数派

このように実際の仕事には大変な面が多いわけですが、そんな中でも多くの人がうれしいイベントとして認識しているものがあります。

それは昇進です。職場内での昇進は昇給をともなうだけでなく、権限も拡大します。また、さらなる出世への足がかりになるため、雇用されて働く多くの人が管理職への昇進を目標の一つにしていると考えられます。

しかし、近年の調査では逆の結果が出ています。管理職になりたくない人が増えているのです。

厚生労働省の「平成30年版 労働経済の分析」によれば、非管理職の61.1%が「管理職に昇進したいと思わない」と回答しています(*1)。昇進を望まない理由として、「責任が重くなる」「業務量が増え、長時間労働になる」などが挙げられています。

この結果から、「管理職に昇進しても苦労するだけで、幸せになれない」と考えている人が増えている可能性が考えられます。はたして実態はどうなのでしょうか。

本稿では働くといった中でも、管理職への昇進に注目し、幸福度との関係を見ていきたいと思います。