「住宅ローンに行き詰まった」という相談が3年で1.5倍に

重い住宅ローンに耐えかねて、せっかく購入した持ち家を手放す家庭も近年増えている。私たちが取材した、任意売却を多数手がける都内の不動産会社には、近年「ローン返済に行き詰まり、住宅を売却したい」という相談が増えているという。2018年には約1500件だった相談件数は、2021年には1800件以上に増加。その多くが、会社員だという。住宅ローン返済が滞る理由でもっとも多いのが「収入が減った」(約43%)、次いで「病気」(約19%)、「離婚」(約16%)と続く。

顔に手を当てストレスを感じている男性
写真=iStock.com/Jatuporn Tansirimas
※写真はイメージです

担当者は最近の傾向を次のように説明する。

「最近は、残業手当やボーナスがなくなって、収入が減ってしまったという方を、大変多く見受けますね。住宅ローンは家計の支出の中でも一番大きい割合を占めていると思うので、収入減少による歪みで返済が滞るということは、ケースとしてはよくありますね」

マイホームの購入は、「人生で一番大きな買い物」とも言われている。残業手当やボーナスが落ち込む場合も想定したうえで、なぜ余裕をもった返済計画を組まないのだろうか、という見方もあるだろう。しかし実際は、手当やボーナスを見込んだ収入でローンを組むケースが、大半だという。

日本銀行による異次元緩和により、住宅ローンの変動金利は0%台という歴史的な超低水準が続いており、「借入がしやすい」状況だ。毎月の返済額をみて「これなら返せるかもしれない」と、ローンを組むことに抵抗感が減る人も多いだろう。

ひとたび不況になればローンの返済が重くのしかかる

しかし、リーマンショックのような大不況や新型コロナ感染拡大のようなことが起きれば、あてにしていたボーナスや手当が突然なくなる事態が起きる。今後、変動金利が上昇する可能性もある。そうした事態に直面したとき、“中流の暮らし”の象徴だった持ち家のローン返済が、逼迫ひっぱくする家計に襲いかかり、生活の根幹が揺らぐ危険性もあるのだ。

2023年現在岸田政権は、若い世代の所得を増やすことや、すべての子ども・子育て世帯を切れ目なく支援することを掲げ、政策を進めていくと表明している。具体的な政策として、一定の年収を超えると扶養を外れる、いわゆる「年収の壁」について制度を見直すことや、多子世帯などに配慮した住宅ローンの金利負担軽減策などを検討する方針を打ち出した。もしこれらの支援制度がすでに整っていれば、住宅ローンが破綻した家庭も家を手放さなくて済む方法もあったのではないか。現場の声に耳を傾け、必要な人たちに必要な支援が速やかに届くことを願う。