ロシアが負ければ抱える紛争が一気に再燃する

旧ソビエト社会主義共和国連邦を構成した国家には、ロシアとは現在も独立問題や領土問題を抱えている国が複数ある。最近ではアゼルバイジャン共和国西部の自治州ナゴルノ・カラバフをめぐるナゴルノ・カラバフ紛争(2020年)でのアルメニア共和国への支援をはじめ、南オセチア州をめぐるジョージアとの戦争(2008年)など、ロシアは数々の紛争に関与してきた。

プーチンの出兵の大義名分は、たいてい「親ロシア派住民が虐げられている」というものだ。いつもこのやり方で、軍事侵攻の口実にする。いまは独立国である国の親ロ派勢力に武力で自治州をつくらせ、紛争をたきつけて「親ロ派を助けに行く」という名目で出兵する。ウクライナへの軍事侵攻も、まさに典型的なやり方だ。

今回ロシアが負ければ、これまでに紛争をたきつけて支配してきた地域も、一気に反ロシア勢力が巻き返し、失うことになりかねない。2000年6月からプーチンが臨時行政府を置いて傀儡化しているチェチェン共和国なども、独立派が勢いを増すだろう。

「親ロ派を助けに行く」という口実は常套手段

1979年12月のソ連のアフガニスタン侵攻の場合は親ロ派のアフガニスタン人民民主党政権が、ムジャヒディンの蜂起に対してソ連に軍事介入を頼んだかたちになっていた。自ら仕組んだ場合でも、内紛によって当事者から依頼された場合でも、それによって傀儡政権を樹立し、思想統制を強めてずるずると時間をかけてロシア化し、自分の領土にしていくのがロシアの常套手段である。これはロシア革命以前に、約200年にわたって存在したロシア帝国からの伝統なのだろう。

プーチンの頭のなかを覗いてみるわけにはいかないが、彼の考え方の根底には、ソ連というよりロシア帝国がある。

6年ほど前にウクライナの親ロ派のドネツク州を取材したことがある。このとき会ったある兵士はロシアの正規軍ではなく、退役した元ロシア軍人の傭兵で、民間軍事会社「ワグネル」に所属していた。当時60歳くらいだった彼は、「俺は帝政ロシアを夢見ている」という。若い軍人はわからないが、我々世代の念頭には帝政ロシアの栄光がある、と強い口調で語っていた。そうした世代の強い支持が、プーチン大統領にはあるのかもしれない。