有名人がCMに登場しない理由
【西山】男性のスキンケア商品には、「カッコよくなろう」とか「イケメンになってモテよう」というような世界観の広告が多いと思います。そこで表現されている若者のカッコよさは、顔の造形とか体形とか、画一的だと思うんです。でもミドルやシニアのカッコよさは、長年生きてきた経験や培ってきたものがにじみ出る瞬間にある。だから画一的なカッコよさに向かうのではなく、一人ひとりが自分の魅力に気づいて、それぞれのカッコよさを体現できる。そんな社会になるといいなという思いでこの商品をつくりました。
人生の後半を豊かにするというコンセプトは、老いを感じ始め、自信を失いかけた男性に受け入れられる。事前に試作をためしてもらう段階でそのことを実感していました。
ですからCMに出ているのも有名な人ではないですし、「VARON」の使用感を語ってもらっていますが、「こんなことを言ってください」と指示した台本もありません。初めてスキンケアというものを体験した人たちが、自分自身の変化に満足する姿をそのまま見せようとしています。
――男性がスキンケア用品を使うことに対する抵抗感はまだあると思います。それを払拭するために、何か工夫をしましたか。
【西山】まず、これ1本で簡単に手入れが済むオールインワンにしたこと。そしてボトルのデザインです。たとえばある日突然、旦那さんが洗面所に、キラキラしたボトルに入った化粧水と、美容液と、クリームを並べたら、それはご家族も抵抗がありますよね。
でもサントリーはお酒の会社ですし、男性にとってはすごく親しみのある会社です。ボトルのデザインも時計や車をイメージしたメタリックなものにし、「これ1本で済むならやってみようかな」と思ってもらえたのではないかと思います。
スキンケアとメイクを混同する男性たち
――開発の過程でどんな気づきや驚きがありましたか。
【西山】部内の女性メンバーからすると、「ここまで男性はスキンケアに対する知識がないのか」と驚きだったようです。たとえば「スキンケア」というと、おしろいをつけることだと思う方が多い。スキンケアとメイクを混同しているんですね。
それから「VARON」のボトルはポンプ式なので、手のひらに適量を出してから顔にのばして使います。ところがこれを直接、顔に垂らした方がいて、「目に入った」というご指摘があったんですよ。あとはサンプルをお渡ししたら、いきなりメガネの上から塗ろうとした方もいました。
試作を試したときに出る言葉も全く違っていて、女性であれば「ハリが……」とか「うるおいが……」といった言葉がでるのですが、そうした言葉は出ず、一番多かったのが「気持ちいい」ということでした。そして「肌が明るくなった」など顔の印象に関する感想が多かったですね。
そういう方に向けた商品にしなくてはいけないということは、強く思いました。