「依存症に片足を突っ込んでいる」状態

常にお酒がないと我慢できないというほどではなく、日常生活も送れているし、仕事にも休まず行けている。こうした状態は、アルコール依存症とは言い難いですが、お酒を飲むと人が変わり、突然キレて暴言を吐いたり、暴力をふるったりするなどして、家族は大きな悩みを抱えて苦しんでいます。

お酒を飲むと人が変わってしまい、飲む量をコントロールできないというのはかなり問題で、アルコール依存症に片足を突っ込んでいると言ってもよいでしょう。いかに早い段階で手を打てるかが重要になります。しかし、コロナ禍でテレワークが進み、会社の飲み会が減って、「家で飲むことができる時間」が増えています。「片足を突っ込んでいる状態」から「両足を突っ込む状態」に移行しやすい環境になっています。

アルコール依存症になると、どんなものよりも酒が大切になってしまい、場合によっては家族や仕事よりもお酒を優先してしまいます。人生の中で大切なものの優先順位が変わってしまうのです。

不安やつらさを吐き出せる場を

ただ、そうならないためには、本人の意思の力だけではどうにもなりません。飲酒の習慣は、自分の力だけで断ち切るのが非常に難しく、家族の力が重要になります。しかし家族にしてみれば、逃げ場がなくて本当に大変です。

お酒の悩みは、直接実害を受けるのも家族ですし、どうしても家庭で抱え込みがちです。なかなか友人や知人には相談しにくく、依存症までいかないのであれば、本人に病院に行くよう促すべきなのかも判断がつきにくいでしょう。

だからこそ、不安やつらさを吐き出せる場所を持ってほしいと思います。カウンセリングや、お酒の問題を抱える人やその家族を支援するNPO法人に相談するのもよいでしょう。話を聞いてもらう場所を持ち、ひとりで悩みを抱えて孤立することを避けてください。

構成=池田純子

井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医

産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。