性感染症である梅毒の2022年の感染者が9月11日時点で、統計を取り始めた1999年以降最多となった。コロナ禍であるのに、なぜなのか。現在の状況や考えられる理由、危険性などについて、日本性感染症学会の理事で梅毒委員会委員長を務める、神戸大学病院泌尿器科の重村克巳医師に話を聞いた。
不特定多数との性交渉や誤った自己判断などが原因
梅毒の感染者の、2022年の報告数は8456人(9月11日現在)に達した。現在の調査方法となった1999年以降で最多だった21年の7875人(速報値)を上回り、過去最多を更新したことになる。重村医師は、急増の理由を次のように話す。
「考えられる理由は三つあります。一つは、性行動の多様化です。患者さんに若い方が多く、ネットやSNSの普及などにより不特定多数との性交渉が増えていると思われます。
二つ目は、別の記事(「梅毒」で関節痛や頭痛、視力低下、脱毛も! 感染者急増の背景に「医師でも診断が難しい」)で解説したように、梅毒には典型的でない症状が多いのですが、ネットで典型的な症状を調べて『自分はこれではないから関係ない』と自己判断してしまうことです」
三つ目は、医師から処方された薬を患者が用法・用量を順守して服用する「服薬コンプライアンス」が守られず、治療を完了できない人がいることだ。治療で最も多く使われているペニシリン系抗生物質の飲み薬は、28日間連続、朝昼晩の服用をしなければいけないという。
「仕事をしている若い世代が、服用を毎日、一日3回続けるのはなかなか難しいですよね。しかも梅毒はいったん症状が落ち着くことがあるため、なんとなく治った気がして『もう大丈夫だろう』と服薬をやめてしまい、人にうつしてしまう患者さんが少なくありません」
感染者の約3分の1は女性。圧倒的に20代が多い
治療は、症状がなくなり、血清抗体価が下がって正常化すれば「治癒」となるが、薬の服用をやめたり忘れたりすると、完全に治癒していない可能性がある。細菌がどんどん増え、血清抗体価が逆戻りすれば、また28日間服用する必要があるという。