しっかり取り組んできた企業にとってはPRの機会になる

逆に、これまで賃金差解消にしっかり取り組んできた企業にとっては、公表義務化は自社PRのいい機会になります。従来、働き方や性別による格差解消に関する取り組みは、男性の両立推進に取り組む企業を表彰する「イクメン企業アワード」のように、自ら応募して受賞しないと世間には知られないままでした。

それが、今後は取り組みの成果が数値として公表され、かつ就活生や転職希望者からも注目されるようになります。優秀な人材の獲得や企業イメージの向上につながっていく可能性も高まるでしょう。

結婚しない男女が増えていることにも対応

社会的な側面から言えば、今回の公表義務化は未婚化の進行にも対応したものなのではないかと思います。これまで、性別による賃金の違いがある程度正当化されてきたのは、ほとんどの人が結婚する社会だったからです。

ところが今は、結婚しない人が男女問わず増えてきています。現状では、一般職の単身女性が、定年までずっと昇給しないまま働いていかざるを得ない例も出てきています。こうしたケースでは、生活がかなり厳しいものになるだろうことは想像にかたくありません

男女の格差 シーソー
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国も、結婚しない人が一定数いるという現実を理解しています。今年度の男女共同参画白書を見たとき、僕は「ようやく『既婚者以外の人』を視野に入れ始めたな」と感じました。賃金差の公表義務化は、そうした現実を前提とした、新たな制度設計を始めますよということなのかもしれません。

男女の賃金差の解消は、未婚化の進行や、子育てや介護をしている人のワークライフバランスの整備といった課題の解決にもつながります。また、多様な人が一緒に働ける社会にするうえでも欠かせないものです。

賃金に限らず、性別によって格差がある状態は、日本でもすでに正当化されにくくなっています。企業には今後、格差解消に向けた対応がますます求められていくと思います。

構成=辻村洋子

田中 俊之(たなか・としゆき)
大妻女子大学人間関係学部准教授、プレジデント総合研究所派遣講師

1975年、東京都生まれ。博士(社会学)。2022年より現職。男性だからこそ抱える問題に着目した「男性学」研究の第一人者として各メディアで活躍するほか、行政機関などにおいて男女共同参画社会の推進に取り組む。近著に、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など。