日本では男性の賃金を100とした場合、女性は77.5と他の先進国と比べると大きな格差がある。この格差は男女賃金差の公表義務化によって縮まるのか。大妻女子大学准教授の田中俊之さんは「賃金差が大きい企業は女子学生だけでなく男子からも敬遠されるでしょう。格差が見える化されることで改善に取り組む企業が増えることが期待できます」という――。
オフィスでオフィス ワーカー
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賃金差の公表は多方面に影響が及ぶ

今年7月、女性活躍推進法に関する制度改正がなされ、従業員が301人以上の企業に対して男女賃金差の公表が義務づけられました。また来年度からは上場企業を対象に賃金格差のほか女性管理職の比率など、男女格差を公開させることが検討されています。これはとても意義のあることだと思います。日本では今も、総合職と一般職という形で、実質的に男女別の雇用形態をとっている企業も少なくありません。

男女の賃金差が大きい企業の中には、いまだにこうした雇用形態をとっているところが多いと考えられます。賃金差を公表すれば、そうした企業体質があからさまに表れてくるでしょうし、その影響は多方面に及ぶでしょう。

あえて古い体質の企業を志望する学生はいない

例えば大学生にとっては、男女の賃金差は就職先を選ぶ際の判断基準になると思います。就活前に志望先の賃金差が大きいことがわかれば、「この会社は古い体質なんだな」と知ることができるわけです。

今、あえて古い体質の企業を志望する学生はほとんどいませんから、そうした企業は優秀な学生を採用できないということになってしまいます。それでは企業も困るので、公表義務化を機に改善に取り組み始めるところも当然出てくるでしょう。

男女賃金差が大きい企業を敬遠する傾向は、今後、特に女子学生で顕著になりそうです。僕はこの4月から女子大学で教壇に立っています。前期を終えて得た感触としては、今は女子学生のうちかなり多くの人が「自分で働いていかなければいけない」という認識を持っているようです。

昔は高収入の夫がいればそれほど一生懸命働かなくてもよかったけれど、今は男性もそんな高収入は望めない。その点を十分に理解していて、だから自分が就業を継続していかなければならないと考えているのです。

つまり、今の女子学生の多くは、何となくでも「定年まで働くしかなさそうだ」という認識を持っているのです。そうした学生たちが、女性だから賃金が上がらない、女性だから管理職になれないといった企業を選ぶとは思えません。その点を判断する上で、男女賃金差はとても重要な指標になるはずです。