バブル崩壊以降日本には長い好景気が2度もあったにも関わらず、1997年以降、日本人の給料は上がっていない。社会保険労務士として長年従業員の給料を見てきた北見昌朗さんは「アベノミクスにより平均年収は上昇に転じて正規従業員が473万人増えたため、一見すればある程度成功したように見えますが、東京と地方、大手と中小、そして男性と女性の格差は開きました」という――。

※本稿は、野口悠紀雄/ほか著『日本人の給料 平均年収は韓国以下の衝撃』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。

下向きのグラフ
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好景気でもなぜ給料は上がらなかったのか

政府の統計によれば、1990年代前半のバブル崩壊後の30年間で、日本では長い好景気が2回あった。2002年2月に始まる「いざなみ景気」は2008年2月まで実に73カ月間も続き戦後最長を更新した。2008年にリーマンショック、2011年3月に東日本大震災に襲われたあと、2012年12月に始まる好景気は2018年10月まで71カ月続き、いざなみ景気を上回る勢いだった。

しかしこの間、日本人の給料は長期減少傾向が続いたため、多くの人たちが好景気を実感できなかった。長年にわたり賃金の動向を見続けている北見氏によれば、とりわけ1997年の金融危機後の10年間の給料減少は激しかったという。そして、安倍政権は雇用者数の増加と給料総額の上昇をもってアベノミクス成功を喧伝したが、内実を見ると様相は異なるのだ。(取材日:2021年8月20日)

この30年間で日本人の給料はどの程度減少したか

【北見】公的機関と民間を合わせて賃金の調査はさまざまありますが、一番信頼できるデータは毎年11月頃に公表される国税庁の「民間給与実態調査」です。非課税の通勤手当を除いて、年末調整後の給与と賞与の合計が算出されているからです。

これによれば、正規と非正規を合わせた日本人の平均年収は、1997年の467万3000円をピークとして下り坂を転げ落ち、リーマンショック翌年の2009年には405万9000円まで下がりました。約10年間で年収は61万円減り、減収幅は1カ月で5万円を超えたのです。

その後、2010年、11年、12年が底となり、第二次安倍政権が発足して2013年から上昇に転じ、2018年までの6年間で平均年収は440万7000円まで上がりました。しかし、上昇に転じて給料が上がり続けたとはいえ、2018年の平均年収はピークの1997年より約30万円も低いのです。

2019年は若干落ちて436万4000円。これは同年10月に消費税が8%から10%に増税された影響があるかもしれません。コロナ禍の影響を受けた2020年の平均年収は、国税庁の9月の公表によれば、前年から0.8%減って433万円でした。しかし9月の公表は概要だけです。

11月に公表される詳細を見れば、より深刻な面が見えてくるかもしれません。

1997年以降、日本人の給料は長期的に見れば減少傾向が続いており、まさに“失われた20年”と言えるのです。