「原点だけは見失わずにいよう」

年中無休で営業するため、製パンメーカーに正月にも製造を求めた交渉は特に難航した。部下たちは倉庫を一時的に借り、正月分を確保する妥協案も考えたが、鈴木氏は突き返した。

正月でも食べられるセブンのパン。

担当者は製パンメーカーのオーナー社長に何度も談判しては反発され、労組の委員長とも交渉したが打開しなかった。落胆する担当者に鈴木氏はこういった。

「原点だけは見失わずにいよう」

部下たちは新しい小売業の形を日本で実現するため、中途採用で集まった素人同然の集団だった。

だから、既存の常識にとらわれず、壁を突き破り、自分たちでゼロからコンビニチェーンの仕組みをつくり上げてきた。

担当者は原点に立ち戻ると再び通い始め、正月にもおいしいパンを顧客に提供したいという思いを自分の言葉で伝え続け、了解を取りつけた。もし、途中で「上司の鈴木がどうしても……」とひとことでもいっていたら、先方のトップは首を縦に振らなかっただろう。

「セブン-イレブンの創業時、取引先との難しい交渉でも、社員たちはコンビニという新しい業態が持つ可能性を語り続けました。コミュニケーションは自分なりに情報を持つことから始まる。単にお願いするだけだったり、何かを聞き出そうとするだけでは、相手は何も応えないでしょう。

でも、相手にとって利益に結びつく情報を提供すれば、それを対話の糸口にすることができます。そのとき、説得力があるのは、自ら経験したり、自分なりに消化した情報です。

会話が弾むだけで終わるベテランもいれば、きちっと情報を提供して、成果に結びつける若手もいる。コミュニケーション能力は情報力と一体です」

※すべて雑誌掲載当時

(宇佐見利明、尾関裕士=撮影)