並外れた環境適応能力を持つクマムシ

地球ができてからそう長くない時期に、少なくとも38億年前には生命が誕生して以来、生物の歴史は今日まで絶えることなく続いています。途中で絶滅してしまった種もたくさんありますが、「生命」全体という単位で見れば、絶滅せずに今日まで生き延びてきています。

つまり、生命というシステムはとてもロバスト(強靭)で、環境適応能力が高いといえるでしょう。

実際、ある種の生物が並外れた環境適応能力を持つことはすでに知られています。たとえば、クマムシという生物。体長0.1~1ミリメートルほどですが“地上最強”といわれるほど、過酷な環境でも生き抜く能力を持っています。陸生のクマムシの1種は、周囲に水がなくなると仮死状態になり、この状態でマイナス273℃の超低温から100℃まで、あるいは真空から7万気圧という高圧まで、さらには宇宙空間で10日間も宇宙線を浴び続けてもまだ生きていたという実験結果があります。

生物がこれだけの環境適応能力を身につけることが可能なら、さまざまな種が生息環境を広げる生存競争を繰り広げる中で、競争に敗れて地底深くに逃げ込んだ種があっても不思議はないと私は思っています。

最近になって、地下空間には思っていた以上に生物がいることがわかって、ほんとうに生物の環境適応能力はすごいものだと感心させられます。

地球上で生きている“私たち”の共通点

でも、地中生物の研究のほんとうに興味深いところは、その先です。もし、“私たち”とはまったく異なる生物が見つかったら、それは大発見になるかもしれないということなのです。

“私たち”とはつまり、いま知られている生物全体のことで、私たち人間にせよ、動物にせよ、細菌のような微生物にせよ、植物にせよ、少なくとも、いま知られているすべての生物は、同じ基本法則に従って、生命を維持し、遺伝子を残しています。

その基本法則というのはセントラルドグマと呼ばれるもので、DNAの持つ遺伝子情報を、mRNA(メッセンジャーRNA)に転写して、それをもとにタンパク質を製造するという一連の仕組みのことです(図表2)。

人間のような高等生物から、もっと原始的な生物まで、遺伝子情報の複雑さはそれぞれでも、この仕組みそのものは同じなのです。