パンも米もダメなら何を食べればいい?

しかし、身をもって糖質制限の効果を実感した私は、胃痛で通院する患者さんの診療を、胃酸を抑える薬中心の診療から食事指導中心へ転換しました。もちろん、患者さんにとって利益があることだと考えたからです。

ところが、一人5~10分程度の外来診療では、患者さんの食事に対する考え方を変えるには、あまりにも時間が足りません。「炭水化物を減らしましょう」というだけだと、かえって反発を招くこともありました。

炭水化物制限をすすめると、決まって次のように返されます。

「小麦や米を減らしたら、主食に何を食べたらいいのですか?」

その際には、肉や魚をメインに野菜や海藻類もしっかり食べて、それでもお腹が空くなら、パンやご飯を少しだけ食べる方法を提案します。

しかし、子どもの頃から慣れ親しんできた炭水化物を控えるというインパクトは想像以上に大きいようで、なかには「この医者、何をいってるの?」といった顔をする患者さんもいました。

よかれと思ってすすめたことが、逆に反感を買うという事態になっていきました。

反発していた患者さんたちを変えた「魔法の言葉」

「炭水化物を減らしましょう」と提案するだけでは、患者さんにどんな食事に変えたらいいのか具体的なイメージを持ってもらえず、なかなか成果が上げられずに悩む日々が続きました。

保険診療では食事指導に十分な時間はかけられないため、患者さんが理解するまでじっくり説明することができません。

自分のクリニックの経営的なことを考えたら、よけいな提案をせずに薬を処方したほうが診療時間も短く済みます。何より、薬を出してほしいと望んでいる患者さんを否定する必要もありません。

昔のような診療に戻そうかと真剣に迷っていたときに、ある患者さんの一言で、パッと視界が広がりました。

「要は、朝のパンをやめればいい、ということですよね。でも、できるかなあ」

いきなり1日3食の食事をコントロールすることをすすめるのは、患者さんにとってハードルが高すぎだったのです。「まずは朝食の習慣だけを変えましょう」と提案したほうが、患者さんが理解しやすい上に、取り組みやすいことに、この一言で気づくことができました。

自分自身は夜の炭水化物を控えたのを機に、朝食も昼食も炭水化物を制限するようになりましたが、多くの人にとっては朝の炭水化物を制限するほうが、最初の一歩として受け入れやすかったのです。

朝食テーブルの上のスライスパン
写真=iStock.com/kuppa_rock
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